※願叶主人公
封筒から出てきた手紙は、全部で4枚。
家族全員へ向けて書かれたものが1枚あり、残りの3枚はそれぞれ
各個人当ての手紙になっていた。
ハルカはその中の自分にあてて書かれた1枚を手に、部屋に戻って
じっくりと読んでいた。
『 親愛なる姉さん、ハルカへ
こんにちは、ハルカ! 風邪とか引かないで元気にしてた?
僕は堂々と楽しく、学校生活を送れたよ。
最近暑くなってきたね。
ハルカは夏が苦手だから、夏バテにならないよう気をつけてね。
僕もシリウスもリーマスも傍にいるんだもの。
体調が悪ければ、我慢しないでちゃんと言ってほしいんだ。
ハルカは自分のことだとすぐ隠しちゃうから、心配なんだよ。
……聞き飽きてると思った?
そうそう、ハルカたちが送ってくれた試験対策レポート!
すごく役に立ったんだよ。
レポートを使ってロンやハーマイオニーとずっと勉強したから、
難しかったスネイプの試験も失敗しなかったんだ。
本当に助かったよ。
うんざりだった試験が終わったから、夏休みが目前だね。
夏休みなんて、少し前まで憂鬱でしかなかったけど、今じゃ世界一
素敵な家族と過ごせる最高の長期休暇なんだ!
何度言っても言い足りないんだ。
ありがとう。
でもねハルカ、何だか僕はおかしいんだよ。
恥ずかしくてシリウスたちには言えないんだけど……。
もうすぐ15歳になるはずなのに、ホグワーツで過ごしていても家から
遠く離れてるなって淋しさが僕の中にずっとあるんだ。
友達と過ごすホグワーツも楽しいけど、掲示板の休暇の知らせを見て、
今すぐにでも家に帰りたいと思っちゃったんだ。
ハルカが暖かく迎えてくれて、シリウスが幸せそうに笑っていて、
リーマスが楽しそうに話をしてくれる僕の家へ帰りたいって。
きっと僕は初めてホームシックになってるのかもしれない。
ハルカは笑うかな?
ううん、きっと、ハルカは笑わないんだろうね。
嬉しそうに笑ってくれるのが、目に浮かんでくるよ。
手紙にシリウスとリーマスが迎えに来るって書いてあったね。
何も知らない他の皆の反応が、どうなるか少し楽しみだ。
家に帰ったら真っ先に 「ただいま」 って言うよ。
その言葉を幸せに感じることが、今の僕には誇りみたいなものだから。
それじゃあ、数日後に帰るよ。
弟から心を込めて ハリー・ポッター 』
くすりと微笑んだハルカは、丁寧に手紙を折りたたむ。
引き出しにしまったあと、いそいそとキッチンへと向かう。
シリウスとリーマスは朝から今日の夕食の買い物をして、その後に駅へ
ハリーを迎えに行くから、帰ってくるのはきっと昼すぎになるだろう。
今日の夕食はご馳走にする予定だ。
それなら昼食は、手の凝ったサンドイッチにしようか。
「~♪」
ハルカは鼻歌を歌いながら、冷蔵庫を確かめる。
玉子、ハム、チーズ、トマト、レタス、朝作ったポテトサラダ。
昨日の夕食の残りのチキンソテーとフルーツ。
色々なサンドイッチを作るのにはもってこいの材料だ。
「うーん、ツナとか小海老とか、サーモンがあれば、もうちょっと
良かったんだけどなー」
ハルカはまずゆで卵を作り、形が崩れないよう注意しながら輪切りにしていく。
次にハムとチーズ、トマト、チキンソテーを食べやすい大きさに切りわけて、
レタスを手で千切る。
そして最後にフルーツサンド用の生クリームを作った。
ついでにママレードとブルーベリーのジャムサンドも作ることにする。
棚から食パンを取り出して耳を切り落とす。
均等に三角に切りそろえてから、せっせと具をはさんでいく。
具がなくなる頃には、大皿の上には綺麗に盛り付けされたサンドイッチの量が
ものすごいことになっていたが、この家ではこれぐらいで良いのだ。
シリウスはよく食べる方であり、リーマスもシリウスほどではないにしろ、
確実にハルカよりは多く食べている。
そして、成長期真っ只中にいるハリーがお腹を空かせて帰ってくる。
絶対に残ったりしないと自信を持ってハルカは言えた。
メインのサンドイッチは完成した。
サンドイッチに挟みきれなかった余りの具材で、簡単なサラダも作れた。
他には、朝食で作った冷たいコーンスープがある。
「そうだ、飲み物」
冷蔵庫にあるのはオレンジジュースとアイスコーヒー。
ティータイムに近い時間にもなるかと、一応ハルカはアイスティーも
用意することにした。
お湯を沸かしつつ、どの茶葉が残っているか見てみる。
棚の小瓶にあるのはダージリンとアッサム、アールグレイ。
小皿やカップを用意しながらふと時計を見てみると、いつのまにかすでに
正午を過ぎている。
今日は天気が良い。
家の中じゃなく、外で食べたら気持ち良いかもしれない。
ウッドデッキに出ると、ハルカはテーブルの上に洗濯したばかりの真っ白な
テーブルクロスを敷く。
そして落とさないように気をつけながら、サンドイッチの大皿を持ってきて
テーブルの真ん中に置いた。
「……あ」
小皿とカップ、ポットを持ってきて並べていると、遠くからエンジンの音が
聞こえてきた。
ぱっと顔を上げると、車がこっちに向かって飛んでくる。
ハルカがハリーを迎えに行った時に使った空飛ぶ車。
だんだんと中に乗る3人の顔が見えてくる。
笑顔で大きく手を振ってみると、助手席のリーマスと後部座席のハリーが
振りかえしてくれた。
ガレージに車が降り立つと、待ちきれなかったようにハリーがトランクを
抱えて飛び出してきた。
その後ろから、たくさんの荷物を抱えたシリウスとリーマス。
笑顔で、微笑んでくれる家族の姿。
胸の内がとても暖かくなり、ハルカも笑顔が広がった。
「ただいま! ハルカ!!」
「ハリー、お帰り! シリウス、リーマスもお帰り!」
「ああ、ただいま」
「ただいま、ハルカ」
もちろん、笑ったりしないよ、ハリー。
だってあたしにとっても。
この家は唯一の場所なんだからね。
END.