「――クロノ君って、理想、高いの?」
「は……?」
振り向けば、じっと僕の目を見つめてくる目。
思わず息を呑みかけて、つとめて冷静に息を吐く。
そのおかげで動揺は何とかバレなかったらしい。
それにしても。
「……いきなり何だい、なのは」
「え、あや、えと」
首を傾げて問うとなのはは少し慌てた。
そして少し上目遣いで僕の事を見やりながら、もじもじと少し
恥ずかしそうにしながら言った。
「あの、ね? さっきエイミィさんとお話してる時に……」
むしろその言葉ですでにある程度の予想がつけられてしまえる僕は、
冴えているのだろうか。
それとも部下に苦労してるだけなのだろうか。
躊躇いながら続けられる言葉をさえぎってしまいたくもなるが、
とりあえず我慢して黙っている。
「……クロノ君って理想が高いんだよって言ってたから……」
「…………。」
思いっきり溜息をつきたくなった。
けれど、ぐっと堪えてそれも我慢した。
溜息をつけばなのはが落ち込んでしまうだろうから。
きっと呆れられてしまったのだろう、と。
「そんな事、言った覚えはないよ」
「そう……なの?」
首を傾げておそるおそる問いかけてくるなのは。
今すぐにエイミィにどういうことか聞きに行きたい所だ。
それでも僕はそうしなかった。
そう言われた理由に、思い当たる部分があったから。
確かなのはと出会う少し前ほどだったと思う。
休憩時間に、お茶を飲みながら母さんやエイミィと話をしてる時に、
どういう経緯だったか、どういう永でその手の話をしたのかは
忘れたけど……何故だかエイミィの恋の話になって。
その時に聞かれたはずだ。
“好きな子はいないのか?” と。
当時はまだ、恋愛そのものに感心などが沸かなかい頃だったし、
またそういう出会いもなかった僕は肯定した。
そして僕は、“今は興味がない” と答えたはずだった。
きっとエイミィはそれを、興味がない = 理想が高いなどと、
間違った解釈をして覚えてしまっていたんだろう。
理想の話などしていないのに、よくそこまで断言できるものだ。
「別に僕は理想が高いわけじゃないよ」
「そ……そっか……良かった」
胸に手をあてて、ほっと安心したように小さく呟くなのは。
きっと僕には聞こえていないだろうと思ってる。
あえて、何も言わないでいてあげる僕。
仕方ないだろう?
今はまだ、僕もなのはも子供で。
母さんやエイミィのように大人じゃなくて。
でも突っ走れるほど単純でもなくて。
慣れていない事にはたくさん戸惑ってばかりで。
それでも。
「ク、クロノ君……あの、フェ、フェイトちゃんに会いにいかない?
フェイトちゃん、もうすぐお勉強が終わる頃だと思うし――」
「……ああ」
小さな手を、何も言わずに繋ぐ事くらいは。
「行こうか、なのは」
「――うんっ!」
僕達はそうして歩んでいけばいい。
END.