※願叶主人公
※IF未来
――ダンスパーティ。
そう……今日は校長が提案した、他校とのダンスパーティ。
本当は悠長にダンスなんかしてないでこれからの起こることに対して、
出来る限り対応しえる事を覚えていきたいのに!
あたしは、ふうと溜息をついて目の前で踊る生徒を見やる。
鳴り響く音楽に、笑い声が絶えない。
きらきらと輝く笑顔に飾られる大広間。
ひらひらと舞う鮮やかなドレスローブ。
そして 『出てくれ』 と頼んできた二人を思い出した。
……ハーマイオニーとジ二ーたっての頼みじゃ、
まさか出ないなんてねえ……やっぱり言えないって……。
今年は4年目。
ハリーにもちゃんと真実を伝えられて、シリウスも無実を世間に
公表できたことだし、あたしはもうホグワーツで生徒でいる必要が
なくなった。
どっちかっていったら生徒としてハリーの傍にいた方が、正解なのかも
しれないんだけど……。
今のあたしの立場は、ホグワーツの教師補佐。
――と言っても、教授のお手伝い(雑用)なんだけどね。
校長特別にあたしのことを推薦してくれた。
まあ……あたしも遠まわしに頼んでみた節はある。
やっぱり、念願だったホグワーツとすぐには離れたくなかったし。
それでも 『危ない!』 ってシリウスは反対してくるわ、
セブルスは思いっきり嫌な顔してくるわで大変だった……。
これはあたしがちゃんと決めたことでもあるんだし、もうちょっとは
良い顔してくれてもいいよね?
もちろんちゃーんと説き伏せたり、それですまない時にはジェームズ
直伝の悪戯してみたりはした――って、それは置いておくとして。
何にしても最初から好意的だったのは、あたしがホグワーツに行くことに
かなり喜んでくれたハリーと、応援してくれたリーマスだけだよ。
何かまた “セブルスと二人になるな” って言われたけど……。
そして、それからも出来る限りのことはちゃんとしてきたつもり。
だけど……今日はそれを出来なかったんだよねえ。
視線を動かしてみれば、踊るハーマイオニーとジニーを見つけた。
彼女たちから少し離れた場所には心ここにあらずのハリーと、
少しむっつりとしたロンが、おざなりに女の子を相手にしてる。
“不安だから、ダンスパーティに一緒に出て欲しい!”
そう、ハーマイオニーとジ二ーの2人に言われた時から。
……うーん、違うか……多分、最初のきっかけはハリーとロンが
喧嘩したっていう相談をハーマイオニーから持ちかけられた時からかな。
もう……あの2人が仲直りするのは本当にいいことなんだけど、
それでハーマイオニーを泣かさないでほしいよ……。
はあ……ロンってばクラムに妬きもち妬いてるよね、絶対。
今だってすっごくクラムのこと、睨んでるし……?
最初はクラムのファンだったのに。
さっきから場所も移動しないで、クラムを睨むロンがいる。
ハーマイオニーも意地になっちゃって……。
あたしは手に持っていたグラスに口をつける。
こくりと冷たい水を喉に流しこむと、大広間に広がってる熱気で
温かくなりすぎていた身体が少し涼しくなった。
すると、ダンスを終えた校長がにこにこと話しかけてきた。
「おや、ハルカ。踊らないのかね?」
「ダンブルドア先生。えーと……あたし、ダンスは苦手でして……」
苦手というか、踊ったことなんてないからね。
日本人にダンス・パーティっていう習慣はないわけだから。
苦笑してやんわりと断る。
でも、校長はそんなことは聞く耳持たなかった。
「苦手だから踊れない――それは間違っておるぞ? ダンスは心で
感じ取って踊るものじゃから、リラックスして足を動かせれば
それでいいのじゃ。充分な睡眠も取らずに、張り詰めておっては
疲れてしまうからの」
その言葉に、ぴくりと肩が揺れた。
校長はそれに気づかなかったのか、踊る生徒を見ている。
……ほのぼのとしてるみたいだけど……。
うわあ、校長ってば……絶対に、あたしが最近寝る間を惜しまずに
高等呪文の勉強してること知ってる。
あたしはこめかみに手をあてた。
くすりと小さく、校長が笑んだのが横目に見える。
うーん、というか、最後の言葉であたしのためにパーティを提案したように
聞こえたのは何故だろう?
そ、そんなことないよね……今年は他の学校も来てるからだよね。
だけど、本当にあたしのためとかだったらどうしよう――。
「おお、ちょうどセブルスには相手がいないようだのう? ハルカも
遠慮せずに気軽に踊ってくるとよい」
「え!?」
ぐいっと体が引っ張られるように前に出てしまう。
ああっ、魔法で押し出されたーっ!!
校長、今あたしに触れてもいないのに!!
でも何故にセブルス!?
どすんっ!
今のあたしと校長とのやり取りを見ていなかったのか、
いきなりぶつかってきたあたしを怪訝そうに見下ろすセブルス。
う……一刻も早く部屋に帰りたいというオーラが出ている。
あたしは黙って、校長を小さく指差してみせた。
それだけでセブルスは、何があったのか悟ってくれたらしい。
セブルスは深い溜息をついた。
観念したように、諦めたようにあたしに言う。
「はあ……人目が気になる。さっさと踊ってしまうぞ」
「あ、う、うん……」
あれ、珍しい?
溜息つきながらも誘ってくれるとは。
まあ……多分同情してくれてるだけだろうけど。
「――踊っていただけますか?」
「喜んで」
不器用に差し出された手に、あたしは静かに手を乗せた。
そしてゆっくりと引き寄せられて、腰を支えられる。
あたしは小声でセブルスに立ち位置を訊く。
「こ、こう?」
「ああ……そうだ。腕はこっちに乗せろ――そう、それでいい。
後はステップだが……自分で合わせろ」
「そんな殺生なっ! うわわ、曲始まっちゃったよっ!」
最初に気がついたのは、ロンだった。
「――ん……? おいおい、嘘だろ……? ハリー見ろ! ハルカが
あのスネイプと踊ってるぞ!!」
「え!? あっ、本当だ……!! だけど、どうしたんだろう……
ハルカ、ダンスは踊ったことないから見学してるって言ってたのに」
眉をひそめて首を傾げるハリー。
ロンは視線を廻らせて、2人を見ている校長に気づく。
「ほら、多分、ダンブルドアにでも押し出されたんじゃないか?
おじいちゃんが孫を見てるような目をしてるぜ。それにしても
ハルカは気づいてないのか? ……ダンスしてる奴らも2人に
注目してるぞ」
あたしは小声で叫んだ。
「やだ、怖っ、セブルスころ、転ぶ、転ぶよっ!! うう……
ドレスなんか着たことないし、ダンスなんか踊ったことないし、
もう止めたいよーっ! 誰か助けてー早く曲終ってー!」
「まったく……いつもドレスなど着るわけがないだろう。泣き言は止めて
ダンスに集中くらい出来ないのか、お前は?」
ゆるくステップを踏んであたしをリードしながら、深く溜息をつく
セブルスを軽く睨んでやる。
「うう、それは分かってるけどさ……ハイヒールもはき慣れてないし。
さっきからセブルスの足を踏みそうで――」
「踏みそう、じゃない。踏んでいる」
周りから、ほうっと溜息をつく音が聞こえてくる。
情熱的で深みのあるバラード調の音楽が、ゆったりと踊っている
深緑のドレスローブのセブルスと、爽やかなオレンジのドレスを着た
ハルカの動きがとてもよく似合っているのだ。
「何だ……ハルカもかなり上手に踊れるんじゃないか。なあ、
ハリーもそう思うよな?」
「ロン、僕さ……胸騒ぎがするんだ……」
ぽつりと呟いたハリーに、ロンは首を傾げる。
「胸騒ぎって何のだよ?」
「……ハルカさ、教師補佐になるって決まった夏休みの最後に、
“絶対スネイプと2人になるな” って、くどいほどシリウスに
約束させられてたんだよね。……そういうのクールそうに見えるけど、
シリウスってかなり独占欲が強いみたいなんだ」
ハリーの目線は、ハルカに釘付けだ。
しかしその声は固く、ロンの不安を煽った。
「え――ちょ、ちょっと待てよ、ハリーの胸騒ぎって……そういうのか?
だ、だって、ルーピン先生もシリウスも、まさかホグワーツには……」
ばぁん!!!!!!!!
耳をつんざくばかりの音が大広間を支配した。
しかし、曲はそのまま流れてる。
「え?」
「なっ!!」
「「あ゛――っ」」
「あら」
「おお……来たようじゃのう」
誰が来たのだろうと思ったのが、間違いだった。
いきなり現れた訪問者は――あたしのとても良く知ってる顔で。
つかつかとあたしの元へ来て、曲の途中にも関わらずにセブルスから
べりっと引き剥がして、硬直するあたしに向かって叫んだ。
「ハルカ!? 何でスネイプなんかと踊ってるんだ!? あれほど
“スネイプには近づくな” と俺は言っただろう!!」
硬直が時間をかけてゆっくりと解けた。
何故……?
「何でシリウスとリーマスが、ここにいるの……?」
そう――訪問者は、一緒に暮らしているシリウスとリーマスだった。
シリウスは怒ってるし、リーマスはにこにこ笑ってる。
“2人” になってるわけじゃないから、それは黒い笑みじゃない。
いや、それはいいんだけどね?
だってここには、生徒や他の先生が全員いるし。
あたしだけじゃなく、ほとんどの生徒が2人の登場に硬直してる。
でも……まあそれは仕方ないよね……。
無実だったとはいえこの間まで脱獄囚だと思われていた人物と、
セブルスが狼人間だとバラした人物がいるんだから。
「こんばんはハルカ。僕たち、この間ダンブルドア先生に招待状を
貰って、せっかくだからこうして来てみたんだよ。まあ……
シリウスがいつものことをやらかしてくれたから、少し遅れて
しまったんだけれどね」
にこにことリーマスが答える。
いつものこと――寝坊か。
いやだから、そうじゃないってば!!
校長ってば招待状なんていつ出して……あ、もしかして狙ってた!?
こういう事態をっ!!
どうしようどうしよう?
この状況で――あたしは何を言えばいいのか分からないよ。
「っ!!」
耐え切れなくなったのかセブルスが踵をかえす。
あぁぁあぁぁああああーっ!!
このあたしを置いて逃げないでぇええ!!
がしっ!
あ――セブルス、シリウスに捕まった……。
しかもシリウスが掴む場所は襟首。
ぐっ、と引き戻されたセブルスの顔が少し青くなった。
「……ああ、まさかこのまま私の前から逃げるわけないだろうな、
ミスター・スネイプ? 私と少しばかり、昔話でもしようではないか」
口調が変わってたシリウスに、あたしはひゅっと息を呑む。
“俺” と “私” ―― 一人称を使い分ける時って怖いんだよね、シリウス。
皆で住むことになってからは、ほとんど “俺” だったけど。
「我輩は話し合うことなどない!」
「そうか、たくさんあるのか、嬉しいよ。さあ、それではさっそく
行こうか。君の研究室は少し空気が澱んでいるから、テラスにでも
行こう」
「なら引きずるな!! 澱んでいるだと!? しかもテラスは寒い!!」
セブルス、シリウスに迫力負けしてる……。
ずるずると引き摺られたままに、大広間から1人は出て行く。
でもまあ……これでシリウスに捕まるのは避けられた!
さあ、あたしは今のうちに逃げ――
「ハルカ♪」
「はい。何でしょうか」
……られなかった。
踵をかえそうとした私に話しかけるリーマス。
何だか、とっても楽しそうだ。
ううう……どうしてリーマスがいること忘れてたんだろう……。
だけど次に言われたのは、責める言葉じゃなかった。
「すごくドレス似合ってる。綺麗だよ」
「はい……? あ、りがとう」
あれ? それだけ?
ちょっとだけ拍子抜けしちゃった。
でも、今日初めてドレスのこと言われたなあ……。
オレンジに近い、山吹色のドレス。
シリウスに貰ったネックレスと指輪に合わせてみたんだけど、
そう言ってもらえて良かった。
「僕もシリウスが無茶しないように、あとで2人の所行って来るから。
変な人に捕まったら駄目だよ? シリウスが怒るからね」
「う、ん」
唖然としながら一つ頷く。
するとリーマスも、満足そうに頷いてくれた。
そして、走り寄ってきたハリーの方に向きかえった。
「リーマス!」
「やあ、こんばんはハリー。さて、今は話できるかな? 手紙だと
書ききれないことがあるって言っていただろう? 僕たちは明日の
朝までいられるからゆっくり話そう」
「うん! じゃあロン、僕ちょっと行って来るね」
「え? あ――うん、分かった」
そしてリーマスは、ハリーをつれて大広間を出て行ってしまった。
何だったんだろうか……?
でもそのあと、あたしはもちろんシリウスに捕まっちゃいました。
そして次の日のセブルスの授業は、自習でした。
校長ー!
END.