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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

まどろみの朝(ハリポタ/シリハリ)


※BL(最終巻ネタバレあり)
※08年ハリー誕生日記念





――ゆっくりと目を開く。

カーテンの隙間から入ってくる光に、照らされる部屋。
そこにぼんやり、4つの影が見えるような気がした。

ウェーブがかった赤毛の少年。
肩下まで伸ばした赤毛の少女。
穏やかそうな鳶色の髪の青年。
くしゃくしゃした黒髪の少年。

しかし、もう一度瞬きしてみればその影はなく。
多少の寂しさと納得が、胸の内をかすめる。
でもそれは目を開いた瞬間からして、違うのだ。

分かっていたこと。

そうと知ってはいても、小さく呟くように声を出した。
戻ってきた現実を認識するために。

「……夢……」

ふいに後ろから抱き込まれて、温かなものがこめかみに触れる。
サラリと流れてきた黒髪が頬にかかった。
耳元で低く透き通った声が言う。

「どんな夢を見たんだ?」

ころり、と寝返りをうって体の位置を変える。
すると目の前に優しく微笑んで、僕を見下ろす彼の姿があった。

「シリウス」

名前を呼ぶと、彼は浮かべていた微笑みを深くした。
その微笑みが僕だけに向けられていると実感して、泣きたくなる。
叶わないと思い続けて、叶ってほしいと想い続けた人。
願いを叶えてくれたのは彼自身だ。
そんなことはないのだと苦笑して彼は否定するだろう。
それでも、僕は言い続ける。

僕に一番の幸せを与えてくれたのは、彼だと。

「ありえない、夢」

すっと軽く手を伸ばせば、すぐに意を汲み取ってくれる。
指がからんで優しく握られた手が、とても嬉しい。

「僕に3人の子供がいるんだ。男の子2人、女の子1人でね」

静かにぽつりぽつりと話す、僕の額に触れる温もり。
普段は恥ずかしさが勝ってしまうのだけれど、今はとても自然に
受け入れることが出来た。
それはきっと、優しい夢の名残のおかげだと感じた。

「あと1人……兄弟みたいな男の子がいて」

夢の中で幸せだと微笑んでいた僕。
その周りには可愛いと思っている子供たちがいて。
彼らにせがまれて話を聞かせようとする。
とても、懐かしい話を。

だけどそれは現実じゃない――僕にとってこれが現実でしかない。
これが夢ならば、どっちが悲しいのだろう?
きっと夢の中の僕も……今ある僕も悲しむだろう。

忘れたくはないのだと。

「ありえたかもしれない……でも、ありえなかった……。
 ……そんな夢……」

僕は微笑みながら彼の背に腕を回す。
眼鏡がなくても、これくらいの距離なら彼はちゃんと見える。
その彼はふいにその微笑みを、意地悪な笑みへと変えた。
――嫌な予感。

「まだ、ありえるかもしれないぞ? ん?」

よりにもよって。

「あははっ、やめてよ! シリウスが消えるなんて、もう嫌だからね」

そう言って僕は背に回した腕を、少しきつくしめた。
少し驚いた様子だった彼は、ふと瞳を閉じた。
そして僕の肩にことんと頭を置いて呟く。

「……そうだな」

きっと今、彼の頭の中にはあの日の僕がいるのだろう。

何かの見間違いだと。
ただの手違いだと。
信じられるわけがないと。
嘘だと。

ベールの向こう側に彼がスローモーションのように倒れていく
彼の姿を見て、戦いのさなか、呆然として目を見開くあの日の僕が。

けれど――彼は戻ってきてくれた。
彼はこうしてここにいる。
嘘じゃない。

「おはよう、シリウス」
「……おはよう、ハリー」





END.

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