忍者ブログ

黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

おしゃれ日和(ポケスペ/グリブル)





ハンガーから新しい服を手に取って確かめてから、
ブルーはとても楽しそうな笑顔で振り向いた。

「イエロー、次はコレを着てね♪」
「ブルーさあん……僕、もう疲れました……」
「あら駄目よ。着てほしい服はまだまだたっくさんあるんだから!」
「はふ……」

ぐったりと疲れたようにソファに座るイエローに向かって、
ブルーは服を突き出してイエローに振ってみせる。

今日は朝から男性陣が出払っていたので暇を持て余していた
イエローとクリスタルを、ブルーがお得意の言葉を回らせて
自分の家へと強引に連れてきたのだ。
そしてイエローは、ブルーの着せ替え人形と化した。

「大丈夫ですか? イエローさん。でもとっても似合ってますよ」
「……ありがとうございます、クリスさん」

苦笑して肩を叩くクリスにイエローは困ったように笑う。
しかしクリスタルは本心しか言っていない。
出会ってからというものの、いつも会う時のイエローの格好は
動きやすそうなものばかりでスカート姿など見たことがない。

クリスタルもいつもはポケモンを優先するとはいえ、
やはりでそこは女の子だ。
ブルーの着せ替えには、楽しさを覚えずにはいられなかった。

手渡された服にもそもそと着替えたイエロー。
いくつかポーズを取らせたりしながら何枚か写真を撮ると、
すぐにブルーは新しい服を選び始めた。
まだ終わらないのかと、イエローはまたソファにぐったり座る。

「さーて、次はどれにしようかしら? イエローってユニセックスなのが
 似合うんだけど、それだといつもと同じになっちゃうし……ちょっと
 ゴスロリっぽいのも着せてみたいわ。イエローはイメージ的に白だけど、
 黒の方が金髪が映えるのよ。そういえば伊達眼鏡があったはずね、
 あれも可愛いわ。そしたらプリーツスカートよりタイトスカート……
 タイトといえばナースかポリスもありよね。いいえ、やっぱりメイド?
 時代的に今はメイドかしら?」
「ブルーさん! それってコスプレになっちゃいますから!!」
「コスプレ……?」

ぶつぶつと呟きながら真剣に悩み始めるブルーを、慌てて
クリスタルが止めに入った。
今のようにおしゃれをさせるのは楽しい。
だがさすがに、コスプレをイエローにさせる気は毛頭なかった。
何せ本人が楽しむより、不思議そうに首を傾げているのだから。

それにもしも、もしもだ。
コスプレさせられたイエローの写真がまかり間違ってブルーの手元から
離れて誰かの手に渡ってしまったとしたら……。
ぞくりと背筋に悪寒が走ったクリスタルは、腕をさする。

そんなクリスタルの心境も知らずにブルーはコスプレを諦め、
別のハンガーから服を選んで手に取った。

「……うーん、だったらここはやっぱりひらひらの女の子らしい
 ワンピースかしらね。だとするとフレアスカートで、肩の所は
 膨らんでる形のが可愛いからこっちがいいわ。胸元がリボンで……」

かたりとブルーが新しく手に取ったワンピースをふと見て、
顔を赤くしながらイエローが立ち上がる。

「ブルーさん! 僕、スカートなんて似合わないですってば!
 ここ数年はそんなの全然着てないですし……森の中を歩いたり
 チュチュたとと遊んだりするのに、スカートは何かと不便ですよ」
「私もイエローさんのスカート姿って、今まで見たことないです」
「何言ってんの、イエロー! あんたはかなり可愛いんだから少しは
 女の子らしくしなくちゃ駄目じゃない! ……それに、イエローが
 男の子みたいな振る舞いする原因はあたしにあるんだからね」
「え、そうだったんですか?」

首を振るイエローに、ブルーは、はあっと大きく溜息をついた。
2人が出会った時のことを知らないクリスタルは、目を丸くする。
思わず唖然としたイエローはくすくすと笑う。

「ブルーさんってば。僕はそんなのまったく気にしてないんですよ?
 だってブルーさんがいてくれたから、今の僕があるんですから」

にっこりと笑ってみせるイエローにブルーは黙る。
世間をまったく知らない少女に麦わら帽子をかぶせたブルーは、
こういう時少女がどれだけ成長したか思い知らされるのだ。
ひょい、とブルーは肩をすくめてみせた。

「……あーもー、本当に可愛いわねーあんたは。でも駄目よ。
 もうバトルもないじゃない。あんたまでどっかのバトル馬鹿に
 なっちゃったらあたしが嫌だもの」
「バ、バトル馬鹿……」
「当たってるでしょ? 今日だってこーんな可愛い子達を放って置いて
 バトルだ修行だ研究だのって朝から出払っちゃってるんだから」
「僕は別に……それがレッドさんですし」
「あーら、あたしバトル馬鹿がレッドだなんて言ってないわよ」
「!」

さきほどの仕返しとばかりに思いきりニヤリと笑うブルーに、
イエローはどかんと顔から湯気を爆発させた。
引っかからなかったクリスタルは思わず笑ってしまう。

「あはは、イエローさん、真っ赤ですよ」
「んふふふ、照れない照れない! 可愛く変身すれば、レッドだって
 バトルや修行よりもあんたのこと見てくれるわよ」

指を振ってブルーが試すように言う。
するとイエローは顔を抑えて言葉を失くしてしまった。
そんな様子にブルーは小さく笑みをこぼした。

「 (とはいえ、レッドはいつもイエローにメロメロなんだけど) 」

少年だと思っていた時から、レッドは自分を助けるために
尽力してくれたイエローを弟のように可愛がっていた。
けれどある事件で女の子だと分かったとたんだ。
イエロー自身は気がついていないのだろうが、レッドのことを
よく知っている人物ならすぐに分かるだろう。

レッドのイエローに対する扱いが変わっているのだ。
大切な大切な宝物を目の前にしているように。

「……じゃあ、ブルーさんも?」
「うん?」

自分で想像したことなのだが酷く惚気られた気分がしたブルーが
ぱたぱたと手を振って想像を散らそうとしていると、
俯いていたイエローがふいに、ブルーへと問いかけてきた。

「ブルーさんもグリーンさんがいなくて淋しいんですか?」
「ちょっと、何でそこでグリーンが出てくるのよ」
「だってさっき、研究って言ってましたから」

今度はブルーが言葉に詰まる。

「そういえばそうですね。バトルだ修行だ研究だの、って」
「…………気のせいよ」
「でもブルーさん、いつもよりちょっと元気ないですよ……」
「……そう?」
「はい」
「私にもそう見えます」

問いかけなら煙に巻くことも簡単だったのだが、そうきっぱりと
断言されてしまっては、ブルーとしても誤魔化しきれない。
それにこの2人には嘘をつく気にもなれなかった。

「イエロー、クリス、今日って何の日だか知ってる?」
「今日ですか? えっと……あれ? え? もしかして今日って」
「ブルーさん」

何事かに気がついて驚く2人に、ブルーは頷く。

「……そ。あたしの誕生日よ。まあ、別にあたしもちゃんとあいつに
 今日がそうだって言ってたわけじゃないし、特に期待してたわけでも
 ないんだけど、ね……」
「ブルーさん……」
「だから今日はとことん付き合いなさいよ、イエロー、クリス!」

腰に手を当てて開き直るブルー。
イエローとクリスタルは目を丸くするが、すぐに微笑んだ。

「もちろんです」
「私たちでよければ喜んで」
「じゃあさっさとイエローはコレ着てね。クリスはこっち」
「え、わ、私も着るんですかーっ!?」
「もちろん!」





「おーい、ブルー? こっちにイエロー達いるの、かああっ!?
「うわっぷ!! ちょっと、レッド先輩? ドアの前でいきなり
 立ち止まらないで下さいッス」
「何なんだ……。おいレッド、一体どうし……」

ノックをしてからドアを開けたレッドは、思いきり仰け反った。
その背中にぶつかったのは、後ろから歩いてきたゴールド。
眉をひそめたグリーンが硬直しているレッドの隣から部屋の中を
覗きこんで、珍しく顔全体に驚きを露わにして立ち止まる。

「あら? 3人とも。お帰りー」
「あ……み、皆さんお帰りなさいっ!」
「お、お帰りなさい……」
「「………………」」

固まったままのレッドとゴールド。
グリーンは額に手を当てて、目線をうろつかせるイエローとクリスタルを
見てからとりあえずブルーに訊ねる。

「……何してるんだ、お前らは?」
「何って見れば分かるでしょ、おしゃれよ。ふふ、よく見なさい!
 イエローはフレアスカートの膝丈ワンピース。肩が膨らんだタイプで
 胸元にリボン。ピンクでまとめて髪は結わずにウェーブつけてみたの。
 クリスはいつもシンプルな服ばっかりだったし、フリルシャツに
 ロングスカートで柔らかい感じにしたわ。どう、レッドにゴールド?
 イエローとクリス、すっごく可愛いでしょ?」

2人を前に押し出しながらブルーは笑う。
最初に我に返ったのはやはりというかゴールドだった。
しかし、顔は少し赤く染まっている。

「……あっ、あ、アレだ、孫にも衣装ってやつだよな、委員長!?」
「な! 何ですってえっ!?」

肩をいからせて掴みかかろうとするクリスタルに、ゴールドは逃げる。
何やってんだか、と思いながらブルーはイエローに目を向けた。

「あう、あの、れ、レッドさん……に、似合ってません、よね」
「……えっ?」
「でっ、ですよね!! ぼ、僕やっぱり着替えてきます!!」
「ちょ! まっ、待ってイエロー!」
「ふえっ……何ですか……?」

おろおろとしているイエローに、レッドは優しく頭を撫でた。

「あーうん、えと。ひ、昼飯食べに行こうぜ、俺腹減っちゃってさ!」
「え? あのっ、えっと」
「……嫌かな?」
「い、嫌じゃないです! いきます!」

嬉しそうに笑うレッドは、イエローの手をさっと取るとブルーたちに
何も言わずそのまま外に出て行く。
開いたままのドアを、ゴールドが走ってくぐり抜ける。
それをクリスタルが手を振り上げて追いかけた。

「ちょっと待ちなさいよ、ゴールド!!」
「へへっ!」

四人の声が遠ざかってようやく静かになった頃、ブルーは少しだけ
馬鹿にされたような気持ちになったが、面白い反応が見れたことで
チャラにすることにした。
ぐっと肩を伸ばす。

「うーん、本当に良い仕事したわぁ」
「はあ……。まったく……お前はあいつらのためにやったのか?
 自分のためにやったのか?」
「そんなの自分のために決まってるでしょ。あー楽しかったー♪」
「それで?」

いつもなら溜息をついて終わりになるはず。
けれど言葉を続けるグリーンに、ブルーは目を瞬かせた。

「何よ、グリーン。まさかあたしのセンスに何かケチつけるって
 言うんじゃないでしょうね? 可愛かったじゃないの!」
「あいつらのことじゃない。お前も……着替えたのか?」
「ああ……これ?」

ようやく気がついたブルーが自分の服を見下ろした。
ブルーはいつもの黒い服を着ていない。
ノースリーブの白いハイネックに、柔らかなフリルの切り替えしがついた、
ふわりと裾が広がる白いロングスカート。

わりと珍しい姿にグリーンは思わずまじまじと眺めるが、自分の格好を
見下ろしているブルーは少しも気がつかなかった。

「イエローたちがあたしが着たら着るって言うもんだからね。
 あたしって黒い服を着てることが多かったから、たまには白い服も
 いいかなって思って。何よ……それがどうかしたの?」
「……いや」
「あっそ」

何か言ってくれるのかと、淡い期待を抱いたブルーは肩をすくめる。
レッドやゴールド、ルビーたちとは違って自分から女の子を手離しで
褒めたりなどしないのがグリーンだ。
むしろそんな姿を見たら、明日は槍が降るかと思わずにいられない。

ブルーはそう考えて、余計に傷つかないように声を出す。

「さーてと、片付けなくっちゃねー」
「っおい! ブルー!!」
「え? きゃっ……」

踏み出した足に何かが絡まってブルーは体制を崩す。
後ろに倒れるのを感じて、ぎゅっと目を閉じる。
ドサリ、と音がしたものの一向に痛みが襲ってこない。
ブルーがおそるおそる目を開けてみると顔をしかめたグリーンが、
自分を抱きかかえて床に座り込んでいるのが見えた。

「……はあ。お前も少しは足元に気をつけろ」
「あ、あはは……さすがのブルーちゃんもまさかシーツが絡んで
 転ぶとは思わなかったわねー。助けてくれてありがと、グリーン。
 今どくわ」
「ああ。……!」

間近にあるグリーンの整った顔に見入ってしまう前に、さっさと
立ち上がろうとするブルー。
しかし、床につこうとした手をグリーンに取られてしまった。
意図して顔が赤くならないよう気をつけて、ブルーは首を傾げる。

「ちょっとどうしたの、グリーン。今度は何――」

左手の薬指に温かな感触。
ちゅ、と音がしてグリーンの顔が指から離れた。

「……っ!!!」
「ほら、立て。……俺たちも飯、食べに行くぞ。外で待ってるから
 用意があるならしてこい。……服はそのままでいい」
「ちょっ、いきなり何よ、ちょっと、グリーン!?」

呼び止める声も無視してグリーンは部屋を出て行く。
バタン、と閉じられたドア。
急に静かになったせいなのかドアの閉まる音よりも、ブルーは自分の
心臓の方が大きい音を立てていることに気づいた。

惚気られた気分になったと思ったら、今度は負けた気分だ。
ブルーは肩を落として大きく溜息をついた。

「……もう、いきなり何だったのよ…グリーンってば……?
 まあ……いいけど……」

ブルーは姿見で顔が赤くなっていないか確認する。
鞄を取りに歩き出す。
すると頭にかぶっていたシーツが、ぱさり……と落ちた。





「(……ドレスに見えた俺もイかれてるか……)」





END.

拍手[2回]

PR