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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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5 ただすこし




「克洵様――!」

凛とした少女の声が、闇の中に響き渡る。

暗闇の中が松明の明かりで照らされ、二人の少女が姿を現した。
先に走って現れたのは、小柄な長い黒髪の少女だった。
わき目もふらずに、倒れている克洵へと駆けつける。
小説の挿絵、そして克洵から聞いていた通りの人だと琳音は思う。

「しっかりなさいませ! ――わたくしの顔までお忘れなさるおつもり
 ですか!?」

「春……姫……」

ああ……これでもう大丈夫。
少女の固い決意が、克洵をも固く繋ぎとめてくれるから。

ひゅうひゅうと鳴る浅い呼吸。
このまま目を閉じて眠ってしまえば、死んでしまうかもしれない。

――嫌、まだ……死ぬのは嫌……!

せめて朔洵がどこかへとふらついてしまう前に、一言ぐらい文句を
言ってやりたい。
どうせほとんど会えなくなるのだから、それくらいはいいだろう。

それは秀麗の心を傷つけるという、選択肢だけれど。
きっとあの状態の朔洵を、自分では生かすことなど出来はしない。

朔洵さえも、本当の最期となった時 “生きたい” と心から望んで、
“あれ” の声に応えたのだから。

それに琳音は朔洵にとって、そんな存在ではないと自覚している。
気まぐれに拾われ、気まぐれに妹にされ、暇つぶしに構われて。
まるで捨てられた動物に悪意なく、餌だけを与えるような。
何という、残酷な気まぐれ。

ここまで振り回されていたのだから、少しくらいは文句を言っても
きっと許されるだろう。

その時――。
誰かが、優しかった兄のように優しく頭を撫でてくれたような気がした。

――誰……?

「……さあ、行きましょう……克洵様」
「待って春姫。僕の妹が――琳音がまだそっちの牢に……」

重く閉じかけようとした瞳が、持ちこたえる。

「克洵様? 妹とは……一体……」
琳音っ!!」

息が掠れて酷く苦しい。
それでも、何とか気力を振り絞って声を出した。

「……に、う……」

静かだったからこそ、囁きに近いその声が聞こえたのだろう。
松明の明かりが真向かいの牢に近づき、倒れる琳音の顔を照らした。

「ちょっ、貴女、しっかりしてっ!!」
「まあ……大変ですわ……! 皆様、耳を塞いで下さいませ!
 錆びれた鍵など壊れてしまいなさい!!
琳音琳音、大丈夫かい!?」

降ってくる声が、琳音の瞳から涙を零れさせた。





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