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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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4 ほんとうの




――お祖父様を、つれてきてあげる。



闇が、蠢き始めた。
いつまでも傾かない克洵に、強硬手段に出たのだろう。

させない。

あの優しい克洵兄上を、少しでも操らせてたまるものか。
たとえ最終的に、克洵が手を染めてはいなかったのだとしても。

咄嗟に、琳音は畳んだ着物の上に置いていた香炉を取ると、
思いきり振りかぶって、格子の外へと投げつけた。
香炉は高い音を立てて砕け割れる。
閉じられた牢の中に、むせ返りそうなほど甘い匂いを漂わせた。

朔洵が琳音をここに閉じ込めた当初、本や着物や小物と一緒に、
香なども持ってきたのだ。

香炉の中にあったのは、春姫が好んでよくつけているという香。
好き勝手に色々と、座敷牢に投げ込んでいった朔洵の遊びの行為に、
今だけは少し、琳音は感謝した。

「……しゅ、んき……春姫……?」
「兄上! 気づいて、克洵兄上っ! ちゃんと前を見てっ!!」

――本当にうるさくて生意気な小娘だね、お前は。

叫ぶ琳音のすぐそばで、声がした。

瞬間、ぎりっと強い力で首を絞められる。
体勢を崩した琳音は、どさりと床へ倒れてしまった。

「かはっ……」

――お前は先に死んでおいで。

「あ……っ、……が……っ」

痛みと苦しみに見開いた目の両端から涙が溢れてこぼれ落ち、
口はしから泡が伝う。
虚空がぐにゃりと滲んで霞み、ぐらりと昏くなっていった。



気づいたのは、何かが争うような声と物音。
死んだと思ったのか、抵抗されないことがつまらなくなったのか。
いつのまにか琳音の首は、闇から解放されていた。
上手く目を開けられなかったが、琳音は格子の向こうのそれを見た。

短刀を握った男が老人に刺され――老人を刺し返す所を。

男の背後で力なく座り込んでいた克洵も、信じられないというように
青ざめながらそれを見入っていた。
きつい鉄の匂いが、香の中にゆっくり混ざっていく。
崩れ落ちた男を睨みながら、老人は後ずさる。

「……の、ごときに……!」

老人は座敷牢からよろめきながら出て行った。
克洵は、震える手を男に伸ばす。

「――ち、ち……うえ……父上……父上……っ」

大切な息子を護るため、最後の最後で狂気から意識を取り戻した人。
これが本当の親子というものかと、琳音は心の底から思った。

育ててくれた院長先生や、面倒を見てくれた兄。
彼らに、自分は何かを返すことが出来ていただろうか。
慕ってくれる幼い弟妹たちに、何かを教えることが出来ただろうか。

私は、孤児院の家族になれていたのだろうか。
本当の家族だと、言ってくれただろうか――。





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