それからの琳音と克洵は、たくさんの話をした。
主に外のことをまったく知らない琳音が色々と克洵に問い、
克洵がそれにひとつひとつ答えるといったように。
そして一通りの会話が尽きると、克洵は狂う父を暴れないよう、
必死にかばっていた。
琳音も出来るならそれを手伝いたかったが、さすがに固く嵌められた
鍵や鉄球は外せそうにない。
口惜しく思う琳音に気づいた克洵は、微笑んで首を振るばかり。
――克洵は強い人だ。
琳音は目線を逸らして耳を塞ごうとして、諦めてしまった。
克洵は目線を逸らさず耳も塞がず、必死に押し留めている。
彼のどこが、何もできない人なのだろうか。
ここにいるしかなかった自分などより、酷く強い人ではないか。
「また自分を責めているんだね、琳音」
さすがに最初こそは、妹という琳音に戸惑っていた克洵。
だが琳音の存在と、優しい言葉や温かな気遣いは、狂いそうな
闇の中で、克洵の精神を唯一保てる力となった。
気まぐれで朔洵に拾われていようが、その素性が知れなかろうが、
克洵にとってはもう、すでに大事な妹として思えていた。
「……だって兄上……」
琳音も克洵に乞われ、堅苦しい言葉遣いをやめている。
咳こんだ父の背をさすりながら、克洵は言う。
「琳音、気にしなくていいんだよ、これは琳音が来る前からの、そう……
僕たち、茶家の過ちなのだから」
「…………。」
その言葉に、琳音はぎゅっと格子を握りしめた。
このままではきっと――あの闇が蠢いてしまう。
今までは何とか自分たちの会話で押さえつけていれたものの、
少し油断すれば呑みこもうと、蠢こうとする。
あの闇を、押し出させるわけにはいかない。
あれが克洵を取り巻いてしまえば、克洵は鴛洵と同じ業を背負う。
何も知らない自分が何とかしようと、何とかしたいと思うのは、きっと、
ありえないほど傲慢で生意気なのだ。
少しでも……と、琳音は思う。
それでも少しでも、克洵と春姫が背負う業を軽く出来るなら。
「ねえ、兄上、英姫様と春姫様の話を聞かせてくれる?」
「うん、いいよ。……琳音は本当にその二人の話が好きだね」
「だって克洵兄上が好きな人だから」
琳音の言葉に瞠目する克洵。
蠢めいて声を上げようとした闇が、ゆっくりと静かになっていく。
「ねえ克洵兄上、きっとね、大丈夫だよ。英姫様と春姫様と、克洵兄上が
頑張っていてくれるなら、茶家はまだ間に合うよ」
「……琳音……」
「だって今、茶州には新しい州牧様が来ているんでしょう? 正していくことが
ありまくりだよ」
「……ただ、す……?」
「正していかなきゃ。過ちを犯したなら、ちゃんと」
かけられた言葉を、ゆっくりと反芻する克洵は顔を上げた。
「……出来るのかな、失敗した僕にも……もう一度?」
「失敗は成功の母って言うんだよ、克洵兄上!」
NEXT.