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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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2 こんばんは




琳音はもともと、茶家があまり好きではなかった。
茶家というよりは、茶家という家柄や権力にしがみつく人間たちの
醜悪な姿であろうか。
鴛洵や英姫、克洵といった人物はとても好ましく思っている。

ともあれ読者であった琳音は、朔洵のこれからたどる道筋と、
そのあとを少しだけ知ってしまっている。

しかし、朔洵自身は嫌いではないものの、人としては苦手だった。
むしろ影月に怒られた時の朔洵の方が好ましく思えるため、
何も見ていない今の朔洵は、相手をしているだけで疲れてしまう。

「……確か、しばらく出かけるって言ってたんだっけ。ということは……
 多分今は原作の茶州編よね? きっと……」

この座敷牢には窓がない。
牢にある光は、出入り口付近でかすかに灯る松明ぐらいで、
琳音には確かな日付も分からなかった。
牢に入れられてから何日経ったのか、それすらも分からない。
今ではもう、琳音の前にふらりと現れた朔洵が、ふと離れて闇に消えて、
また現れるまでの時間が、何日にも何ヶ月にも感じるようになってしまった。

大好きな原作のどれほどを無駄にしているか考えると、悲しくなる。
琳音は “あえて” 考えていたことを、思わず止めてしまった。

ふいに――。
今度はケタケタと形容するしかない声が、闇を裂いて響く。

琳音は、ふう……と小さく溜息をつく。
そして何故、他愛もないことを考えこんでいたかを思い出す。

聴きたくないから、考えに没頭していたのだ。

笑い声をただ聞くしかなかった最初は気が狂いそうになったが、
今ではもう耳を塞ぐことすら諦めた。
塞いだ所で、あの笑い声は止まったりなどしないのだから。
闇に慣れてしまった目を、そっと細める。
琳音の座敷牢の真向かいの牢の中、笑い声の現況が見えた。
日夜、酷く痩せ衰えた男が一人、狂笑し続けている。

もう一度溜息をつこうとした時、重い音が二度響いてきた。
扉が開く音と、閉まる音。



「……そん、そんな……本当に……父上、なのですか……?」



ケタケタ、ケタケタ。

笑い続ける声に向かって、愕然とした声が問いかけられる。
すると、狂笑がひときわ大きくなった気がした。
思わず琳音は目を見開く。

ひたりひたりと、ふらつく身体で座敷牢に近づいていくのは、
青ざめた一人の青年。

「――克洵兄上……?」

琳音の声に、はっと振り向く青年。
愕然として憔悴しきった顔に、それとは別の驚愕の色が宿った。

「え、貴女、は……」
「わたくしは……琳音と申します。茶、琳音と」
「……茶……琳音殿……?」

彼が困惑するのも無理はないだろう。
何せ琳音は、誰も知らない所で勝手に朔洵の“妹”なのだと
彼に位置づけられてしまっているのだから。

「わたくしは、しばらく前に朔洵様に拾われ “妹” とされました。
 以後、此処から外に出たことはありませぬ」
「兄、上に?」

ケタケタ。

笑い声が響き渡った。





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