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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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1 ふりかえる




そもそも何が悪かったのか。
――運が悪かったのだ。



朔洵が立ち去ってしばらくしたあと、静かな暗闇の中で、
琳音は小さく溜息をつく。

親を亡くして、小さな孤児院で育っていた琳音
非行に走ることもなく、優しい院長と兄弟妹たちに囲まれて
それなりに幸せに暮らしていた。
転機が訪れたのは、いつだったかはもう定かではない。

そう、一番初めのきっかけは、孤児院の全員が大好きだった
“兄” が、突然行方不明になってしまったこと。

実妹はまさに放心状態。
状況が分かってしまう琳音たちは愕然とし、幼い弟妹たちは
兄がどこにもいない」と号泣して止まらない。
唯一、動揺を悟られないように冷静につとめていた院長が警察に
捜索願いを出したものの、結局はなしのつぶて。
誘拐などの事件性はないだろうと、早めに判断されてしまい、
以後の捜査はおざなりだった。

そのまま、数年がすぎ。

当時小学生だった琳音たちも高校生になり。
少しだけ気持ちに整理がついてきた――まさにそんな時だ。

気づけば、琳音はこの家の中庭に倒れていた。

どうしてなのかは、記憶が曖昧で今尚思い出せていない。
呆然としているとこの家の者らしい茶朔洵という男に拾われて、
きまぐれに“妹” にされ、暗い牢に閉じこめられたのだ。

それ以後、毎日毎日朔洵は日暮れになると足しげく通ってくる。
けれど、特に何かをするわけでもない。
世間話ですらない他愛のない戯言を残して、帰っていく。
誰が持ってきているか分からないが、食事などはいつのまにか
格子の外に置かれている。

「何が悪かったって、この家の中庭に倒れてたってことよね」

琳音は普段の言葉遣いに戻して、愚痴る。

琳音が放りこまれたのは、がらんとした座敷牢だった。
そこに、退屈しのぎにと思ったのだろう、朔洵はせっせと多くの本や料紙やら
墨やらを琳音の牢へと持ってきた。
その次には、どこから調達してきたのだろうか、大量の女物の豪奢な着物やら
化粧道具やら小物やらを持ってきた。

牢に放り込まれてくるたくさんの物に辟易しながらも、朔洵が持ってきた
本を読んでいた琳音はとある重大な事実に気がついてしまった。

――ここは自分のいた世界では、ないということを。
その上、自分の知る世界だということを。

指先で少し古びた本の表紙を、ゆっくりと撫ぜる。

信じられずに何度も何度も読んで、中身を覚えてしまった本。
何故か言葉と読み書きが普通に出来ている自分に、琳音は思わず
安堵と不安、両方を心に覚えてしまった。

―― 『彩雲国物語』 。

その本は琳音が好きだった、ライトノベルのタイトルと同じ。
けれどその中身は、まったくの別物である。
幼い子供に読み聞かせるような、薄くまとめられた本。

だから琳音は、気づいてしまったのだ。
彩雲国が存在している世界に、来てしまったことを。

運が、悪かったのだ。

「……どうして茶家の中庭に落ちるのかな? 出来れば秀麗ちゃんちか、
 黄家が良かったのに。ああ、劉輝の所でも良かったかもね」





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