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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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日常編-4


※原作キャラですがほぼオリジナルです。




テッドは目線を下方に固定したまま、ポケットに手を伸ばす。
ばらばらの塊をひとつ取り出し、器用に片手で包み紙をはがしてぽいっと
口に投げ込む。
とろりと甘く溶け出したのはチョコレート。
大きく丸い形だったので飴かと思っていたテッドは、すぐに飲み込んで
しまわずに、そのまま舌で転がし始めた。

ぱらり、と静かにページをめくる。
掌の本は分厚く、その字はとても小さく細かい。
まったく表情を変えずに、それは淡々と読み進めていく。
本が小説であるならまだしも、テッドが読んでいるのは魔術に関する
高度な参考書であるため、本嫌いであれば枕にもしないだろう。

さわりと静かに吹く風に、テッドの髪が揺れる。
今、読書をしているテッドが座っているのは、与えられた自室や教室、
図書室などではなく、ホグワーツの裏庭だった。
裏庭と言っても、城から少しばかり離れた禁断の森に近い場所である。
競技場のあるグラウンドは遠く、湖やハグリットの小屋とも離れているため、
人通りはほとんどない。

学生時代、ひとりきりになりたくなった時、テッドはよくここに
訪れていた。
重なる茂みの奥に入って大木に寄りかかり、浮き出た根の上に座ってしまえば、
外から見ると姿を完全に隠してしまう。
誰もここに人がいるだなんて気がつきはしなかった。

本格的に冬に近づいて肌寒くなってきているが、それは頭を冷やして
心を落ちつかせてくれる。
テッドがページをめくる手を止めるのは、ローブのポケットに手を伸ばして
菓子をつまむ時と、文字列を軽く杖先でなぞってラインを引く時のみ。

ラインを引いた所は、後で辞書や辞典を参考に理解し直す箇所だ。
参考書の分からない所に全てラインを直に引いてしまったり、
付箋を貼り付けていくと、あまりに多くて見た目が汚くなってしまう。

見栄えにも使用するのにも使いづらくなるのを嫌がったテッドに、
学生時代の恩師は自身が使用しているこの方法を伝授した。
魔法で行うならば、ラインを付け足すのも消すのも簡単であり、
色を分けることも自在。
メモを書き込むことも出来るという、本が汚れない素晴らしい方法だ。
テッドは私物の本でもその方法を使い続けてきた。

杖をしまいこんでいたテッドは、口の中で転がしていたチョコレートが
溶けきったことに気づいて、そのままポケットに手を伸ばす。
またひとつ取り出して、口に投げ込む。

瞬間。

どさりと何かが真上から降ってきて、テッドはびくりと肩を震わせる。
衝撃のせいで勢い余って飲みこみかけてしまったのは、先ほどと同じ
チョコレートではなかった。
正真正銘、丸くて大きい飴だった。

「っむぐ、ごほっごほっ!!」

喉につまる飴に焦り、テッドはむせ返る。
テッドを驚かせた原因もそれに気がついたのか、慌てて背中をさすってきた。

「あらっ!? ご、ごめんなさいね! まさかこんな所に人がいるだなんて、
 まったく思わなくって!!」
「げほげほっ、ごほっ!」
「ほら、落ちついて。勢いよく咳き込まずに、ゆっくり」
「けほっ……」

優しい声と手の動きに、テッドは何とか飴を飲みこむことが出来た。
軽く咳払いをしてから大きく深呼吸をする。

「……死ぬかと思った……」
「ふふ、驚かせて本当にごめんなさいね」

苦笑したらしい声の響き。
テッドはふと聞き覚えがある気がして、そっと顔を上げる。
そこには、制服ではなく私物であろうローブを羽織った女性がいた。

咳きこんでいたテッドの様子を気遣うように覗きこむ優しげな瞳と、
ローブからこぼれ落ちる明るい茶色の髪。
テッドは言葉を返すのを忘れ、思わず瞬いた。

「大丈夫?」
「えっと……はい……もう大丈夫です」

呆然としたようなテッドに、女性は動きを止める。

「あ……あー、ええと、あの、怪しい者じゃないのよ。こういう言い方って
 怪しいと思うでしょうけど、違うのよ? ただ校長に用があって
 来たのであって、あまり堂々と来て、知り合いに見られるというのも
 少し困るというか、ちょっとした事情があって、ええと…………
 そういえば新しい教員の方かしら? 生徒じゃないわよね?」

僅かに焦るように紡がれた言葉は、けれど唐突に首を傾げ疑問に変わった。
目を瞬いてテッドを見ていた女性はふと微笑む。

「ふふ、不思議ね」
「え?」
「初めて会ったのに、何だか知ってる気がするのよね。きっと貴方が、
 私の旦那様に少しだけ似ているからだと思うわ」

同じ色の瞳を見つめながら綺麗に笑う女性。
それは、テッドを通して彼女の愛する人を見ているからだろう。

「そろそろ行かなきゃ。本当にごめんなさいね。これ、お詫びに」

テッドの掌にローブのポケットから取り出した一口サイズのブラウニーを
ぽとりと落とし、女性は髪を翻して、ホグワーツの方へと駆けていく。

ぼんやりとその後ろ姿を消えるまで見送るテッド。
そっとブラウニーへ視線を向けた。

ブラウニーは、お菓子作りの得意な彼女の好物のひとつ。

――失念していた。
ここは過去の時代なのだから、若い祖母にも出会う可能性はあったのだと。





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