「……さて、まずは改めて紹介しようかのう。今日から新しく
『闇の魔術に対する防衛術』 を教えることとなったアルフォード先生、
そして助手のトンクス先生じゃ」
「初めまして、ハリー・アルフォードです。よろしく」
「助手のテッド・トンクスです」
朝食時の大広間。
生徒たちが朝食を食べ始める前に紹介をするということで、
ハリーは立ち上がって生徒に向かって微笑みを浮かべた。
初めて座った教員テーブルからの景色に、どこか気恥ずかしさを
感じつつ座りなおす。
本当なら、ハリーはもっと早くにこの場所に座ることも出来ていた。
ホグワーツを卒業して、少し経った頃。
ハリーは恩師たちや周囲からホグワーツの教師にならないかという
とても光栄なはずの誘いを、何度か受けたことがある。
――けれどその頃、ハリーの周りは何かと騒がしかったのだ。
ヴォルデモートの配下全てが、1人残らず捕まったわけでもなく、
最後の戦いの話や写真を求めに来る記者たちなども煩わしく。
とてつもなく長かった戦いを終えたばかりなのだから、少しは静かに
暮らしたいと思っていたのに。
歓喜に沸くばかりの世間は、それを許してくれなかった。
ホグワーツの教師になるという話自体はとても嬉しかったのだが、
世間から騒がれている真っ只中では余計に騒がしくなるだろう。
静かになってほしいという思いとは、まるで正反対である。
「続いて、3人の編入生を紹介しよう。さあ、前に」
ダンブルドアは教員テーブルの後ろに控えていた子供たちを、前へ誘う。
辞めた教師の後任はともかく、新しい編入生が来るとは思って
いなかったらしい生徒たちがざわめく。
そのざわめきを、咳払いをしたマクゴナガルがすぐさま止めた。
ジムは胸を張って堂々と、アルバスとルーナはその隣に少しだけ
照れくさそうにしながら前に立つ。
「初めまして、僕はジム・アルフォード、グリフィンドール5年だよ!
好きなことは悪戯とクィディッチ!! ……ターゲットも選手も、
僕に狙われたら覚悟してね?」
ウインクをして悪戯な笑みを浮かべるジムに、女子の黄色い声が上がる。
思わず、ハリーとテッドは痛んでくる頭を支えて溜息をつく。
アルバスは恥ずかしさに顔をしかめ、機嫌良く調子にのっている兄の
ローブを小さく引いた。
「こほん。……弟のアルバス・アルフォードです。グリフィンドールの
3年に転入します。よろしくお願いします」
「妹のルーナ・アルフォードです。グリフィンドール1年です……
よろしくお願いします」
三人が挨拶を終えると、特にグリフィンドールのテーブルから盛大な
歓声と拍手が上がる。
ダンブルドアに促されて3人もテーブルにつくと、朝食が始まった。
懐かしい味のするスクランブルエッグを食べていたハリーは、
ふいに横からテッドに話しかけられる。
「兄さ――先生、授業は午後からでしたよね?」
「ああ、そうだよ。今日の授業はグリフィンドールの3年生……
アルバスたちの授業だね」
「3年生」
テッドの顔は少しだけ面白そうな輝きに変わる。
それを見たハリーは、くすりと声を立てた。
「もしかしてトンクス先生は “アレ” をやってみたいのかな?」
「アルフォード先生だって、考えていたんじゃないですか?」
「さて、どうかな。でもトンクス先生のリクエストを参考にするのも
いいかもしれないね。 探すのを手伝ってくれるかい?」
「はい」
くすくすと笑うテッドに、ハリーは微笑んでクロワッサンをちぎる。
ふいに、どこからか視線を感じてちらりと顔を上げてみた。
するとにやにやとした笑みを浮かべた青年2人が、隠そうともぜずに
こちらを伺っているのが見える。
隣には微笑みを浮かべる女性、苦笑する青年、困った顔をする青年の姿。
彼らの姿に、刹那、ハリーの顔から笑みが消えそうになる。
ハリーは静かに紅茶を口にして、ざわつきそうになる心を抑えた。
「……おい、ジェームズ。さっきの話、本当だろうな?」
「もちろんだよ。誰がわざわざ、透明マントを暴かれましたなんて
メリットもない嘘をつくんだい?」
「だよなあ」
にやにやと笑みを浮かべながら訊く青年に、ジェームズは肩をすくめる。
すると青年の笑みが、少し挑戦的なものに変わった。
目線の先には、紅茶を飲みながら隣に座る助手と話す新任の教師。
切れ長の瞳はターゲットを得た楽しみに、きらめいている。
「こらシリウス、顔が凶悪犯みたいになってるよ。だけどそれだけ
鋭い先生だったら、そうそう簡単にはいかないんじゃない?」
「ぼ、僕もそう思うよ……」
落ちつかせるようにローブを軽く引くのは、鳶色の髪の青年。
それに賛同して何度か頷くのは、気弱に見える青年だ。
「何を弱いこと言ってんだ、リーマスもピーターも。そういう奴を
ハメてやるのが面白ぇんじゃねえか。それに、最近はマンネリっぽく
なってきてた所だろ? そうだろ、ジェームズ?」
「まあね」
にっこりと笑んだジェームズは、軽く頷いてみせる。
デザートのオレンジを頬張っていた女性が、少し大きめな溜息をついた。
「……でも、あまり大げさなことはしないでちょうだいね。
この間の減点分、まだ取り戻せてないのよ?」
「ああ心配しないでよ、リリー。今日の授業で倍にして戻すからさ!
……それにあの先生……何だか僕たちと話が合いそうだと思ってね。
悪戯話とかじゃなくて、常に味方でいてくれる気がするんだよ」
「は? 何だよ、それ? 話が合いそうなのはジムの方だろ」
「うーん……ただの勘みたいなものだけど」
意外そうな表情を作ったリリーが、ちらりとジェームズを見やる。
「あら? ジェームズの勘は、外れたことがなかった気がするけれど?」
「おやおや、リリーにそう言われるなんて光栄だね」
からかうような視線に、ジェームズはにっこりと微笑んだ。
NEXT.