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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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トリップ編-7





子供たちが寝静まったあと、ハリーは静かに部屋を出た。
絵画の中で眠る人物たちを横目に、燭台に照らされた仄暗い
ホグワーツの通路を眺め歩く。

学生時代に戻ったような――。
それでいて、初めての場所を見るかのような。
古かったものが新しくなっていたり、あったものがなかったり。
どこか懐かしく新鮮な雰囲気に包まれる。

「こんな形でホグワーツに戻ってくることになるとはね」



タタタタ……



「ん?」

ふいに、走る足音が聞こえたような気がしてハリーは振り返った。
ハリーは極力耳をすましながら歩みを遅くする。
そうするとやはり、前方の方から足音がこちらに向かってくるようだ。
しかし、燭台に照らされる廊下には何の影も見えてこない。
思わず昔を思い出して、ハリーは内心で苦笑した。

「(ああ……これは……)」

そ知らぬ顔をしながら歩き続ける。
影のない足音がまるで速度を遅くしたように急に小さくなり、
忍び足をするかのように、そっとハリーの横を通りすぎようとした。

瞬間。

ハリーはさっと掌をひるがえして虚空を掴む。
布らしき感触を手に感じ、ぐいっとそれを引っ張った。
ばさりっ、と音を立てて現れたのは向こう側が透けて見える
1枚の魔法のマント。
そこからまるで 『姿現し』 でもしたかのように、驚いた顔をした
眼鏡の青年が現れた。

「……こんばんは。透明マントを見破られたのは初めてかい?」
「どうして――」

驚きすぎてその場から逃げることも忘れてしまったのか、青年……
ジェームズは呆然と立ち尽くす。
その姿に思わずハリーはくすりと微笑む。
むろん、昔の自分もそう信じていた時がある。

「僕も信じていたよ。マントがあれば、誰にも見つかることはないと」
「貴方もマントを!?」
「まあ……今はあまり使ってはいないけれどね?」

確かに所持してはいるものの、ハリーは学校を卒業してから、
実際にマントを使うことはほとんどなくなった。

息子たちにも学校生活のことや親たちの話をしても、ハリーの持ち物の
マントなどに関する話はしていない。
それはいつか、マントや地図を譲る時に話すつもりだったからだ。

「名前を訊いてもいいかな?」
「僕はジェームズ・ポッターです。アルフォード先生」
「……授業中はそうした方がいいけど、2人の時は名前で構わないよ?」
「そうですか? それじゃあ、お言葉に甘えてハリー先生」
「うん」

肩をすくめながら笑うジェームズを見て、ハリーは複雑な心境になる。
写真で、鏡で、夢で、石で――視たことがあるひと。
まさか自分よりも幼い姿を目の前にするとは、思ってもみなかった。
今回のジムの悪戯には呆れもしたし、本当に頭を痛めたりもした。

――けれど、心の片隅に抱いた期待や緊張に胸が高鳴ったのも
事実だった。

ここでは彼のことを父とは呼べないけれど。
それでも。

「悪戯をしに行く所かい? それとも、帰っていく所?」
「いやあ……実は」

ポリポリと頬をかいてジェームズは苦笑する。
ジェームズがそろりと後ろを振り返った。
するとジェームズが走ってきた方向の通路から、また別の足音が
こちらへ向かってくることに気がつく。
曲がり角の向こう側から見える影に、ひらりと猫の影が揺らめいた。

ハリーは眉をひそめると、慌てて逃げ出そうとするジェームズの
手を軽く引く。
近くのガーゴイルの後ろに回って杖先で壁をノックする。
ガタリと音を立てて開いた壁の中にジェームズを引っ張りこみ、
静かに音を立てないように壁を閉めた。

息を殺しながら隙間から通路を伺う。

辺りを警戒するように見回しながら一匹の猫が通り過ぎ、
その後ろを一人の男が歩く。
影が角を曲がってしばらくした頃に、ハリーは通路へと出た。

「(フィルチに悪戯をしてきたって所かな)」

親友の兄を思い出しながら、ハリーは苦笑した。
自分は父の悪戯好きはあいにくと引き継げはしなかったが、
彼らに意思は次世代に引き継がれている。
受け継ぐ者がいれば、意思も途絶えることはないのだろう。

「ハリー先生って……ホグワーツの出身なんですか?
 こんな隠し扉、僕だって――」
「……ホグワーツをもっと楽しむにはどうすればいいと思う?」
「え」

少しだけ悪戯っぽく問いかけるハリー。
ジェームズは黙りこんだあと、ぱっと顔を上げて悪戯な笑みを
浮かべる。

「ホグワーツをもっと知ること!」
「それじゃあ、もっとよく知るためには?」
「隠し扉とかの記録を……ホグワーツの地図を作る!」

ジェームズの瞳が輝きを増す。
きっと彼のことだ、記録を残すことはどこかで考えていたかもしれない。
それでも、ホグワーツの地図を作るということまでには
気づいてなかったようだ。
――もしかしたら制作に取り掛かる直前にはあるのかもしれない。

「(ヒントはここまで)」

地図を見るのに合言葉が必要なこと、地図の上に人物の名前が載ること、
地図は絶対に嘘をつかないこと、合言葉なしに無理に見ようとすると
からかわれてしまうこと――。

それらは彼らが考えることなのだから。





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