アルバスは、黙々と歩くセブルスの後ろを追いかける。
校長室へ向かう通路は誰もおらず、二人の姿を胡乱げに見やる
生徒も教師もいない。
というのも今の時刻はちょうど夕食の時間帯で、生徒たちは
大広間に集まっている。
今日の宿題のレポートを仕上げるために、セブルスはさっさと
夕食をすませて、図書室から参考資料を借りて部屋へ戻ってきた。
ちょうどその時に、アルバスがどこからか落ちてきたらしい。
前を歩いていたセブルスは、ふと歩みを止めてちらりと
後ろを振り返る。
「先輩?」
ばさりと音がしてアルバスの視界が黒に染まる。
頭からかけられた布を取ってみれば、いつのまに脱いだのか、
それはセブルスのローブだった。
ぽかんとするアルバスに、セブルスはすっと視線を外す。
「……10月に入ったばかりとはいえ夜は冷える。その格好では
風邪を引くだろう」
「あ……」
「……着ていろ」
アルバスは今は10月なのかと思いつつ、自分の格好を見下ろす。
薄い長袖のシャツ1枚と、だぼついたカーゴパンツ。
ホグワーツに飛んで来る前は夏休み真っ最中であり、これでちょうど
良いくらいだったのだ。
せっかく好意で貸してくれたのに、断るのはセブルスに悪い。
すぐにそう思ったアルバスは、手早く大きなローブに腕を通した。
「えっと、先輩は大丈夫なんですか?」
「……私はセーターを着ている。行くぞ」
「はい!」
前を向いて歩きだすセブルスに、アルバスは笑って後を追いかける。
雰囲気や表情などで冷たく感じるであろうセブルスであるが、
その印象を持たずに接してみると、そうではないことが分かる。
彼はただ、不器用なだけなのだ。
自分が意識せずに見抜いたことだと気づかず、アルバスは嬉しくなる。
父親から話を聞いて、想像していた通りの人物なのだと。
そして思い至る。
もしかしたら、父親たちも来ているのではないかということに。
ふわふわと浮上していた気持ちが、それを思った瞬間にどんどん
下がっていく。
自分は会えないと思っていた人に会えて嬉しい。
けれど、父親とテッドはどうなのだろうか。
会えない人には会えるだろう――けれどそれはアルバスのような
出会い方ではない。
それを思うと、アルバスは素直にこの状況を嬉しく
思えなくなってしまった。
階段にさしかかった所で急にセブルスが立ち止まる。
そしていきなり振り向くと、アルバスの腕を引いて壁際に押し寄せた。
――バシャンッ!!
「!?」
水をぶちまけたような音に驚き、アルバスは廊下を振り向く。
通路はやはり水浸しになっていた。
近くに赤いゴムのようなものが落ちているのを見て、アルバスはふと
新入生としてホグワーツに初めて入った時に投げつけられた
ピーブスの水風船攻撃を思い出した。
アルバスやローズは両親たちからきっちりとピーブスについて
注意を受けていたため、あわやという所で喰らうことはなかったが、
ちょうど2人の隣にいたスコーピウスは避けられず真正面から
見事にくらってしまい、運悪くも初日から風邪を引いてしまったのだ。
父親がピーブスに関わらないようしつこく言っていたのは、
こういうことかと納得したものだ。
「あれー? 何だ、避けちゃったのか」
「……一昨日と同じ手に喰らってたまるか」
「ちぇ、やっぱり君にはこんな手は通じなかったか! あーあ……
せっかく中身はサービスでお湯にしといたのに」
「余計に悪いわ!!」
「あはははは」
階段の上で楽しげに笑う青年を見やる。
思わず、兄の名前を呼びそうになったアルバスはすんでの所で
言葉を飲み込む。
腰に手を当てて笑っている姿は兄とそっくりではあるが、
青年は自分と似たようなくしゃくしゃの黒髪で、ハシバミの瞳。
眼鏡をかけていることで、自分より父親に似ていると思った。
「ん? セブルス、その子は――」
「あ、いたいた」
「おい、ジェームズ!」
青年がアルバスに気づいて口を開きかけると、青年がいた踊り場より
上の階段から三人の人影が現れた。
黒髪の背の高い青年と、鳶色の髪の穏やかそうな青年。
その後ろに、アルバスの見慣れた人物が立っていた。
「兄さん!」
「アルバスッ!?」
思わず呼びかけると、ジムもアルバスに気づいて階段を駆け下りてくる。
がしりと肩を掴まれてアルバスは目を瞬かせる。
きょとんと見上げてみれば、いつもとは考えられないほどに真剣な
顔をしたジムがいた。
「大丈夫だったのか? 怪我してないか? 何ともないか?」
「あの、僕は大丈夫だけど、ちょっと兄さん……?」
「そっか……なら良かった……」
「う、うん」
深く深く息をついたジムはアルバスをぎゅっとだきしめる。
不可思議なジムの言動に、わけが分からなくなってしまった
アルバスは困り果てる。
ジムとしては自分の不注意でこんなことになってしまったため、
とても大事な家族に何かあったらと酷く不安で仕方ない心境に
かられていたのだ。
けれどそれを聡いアルバスがまったく読み取れないのは、
ジムの日頃の行いのせいだろう。
その様子を、セブルスたち4人は唖然とした顔で眺めていた。
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