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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第4章 台風5号 ヤサシスギルココロ(1)





「服は?」

私は何とか鼓動を落ち着かせて、部屋の片隅に立った。
侑子さんが椅子に肘をつきながらそう訊くと、背の高い黒い人が
警戒した顔で顔をしかめる。

あー、かなり不機嫌そうだなあ……。
というか苦労性で、あまり笑ったりしなさそうに見える。

『あぁ!?』
「元いた国での服はどうしたの?」

もう一度侑子さんがそう問いかける。
すると、今度は真面目そうな少年が最初に答えた。

『紗羅ノ国に置いてきてしまったんです』
『白まんじゅうが無理矢理別の国に連れて来やがって』
『戻ってもそのまますぐこのピッフル国に移動しちゃったからねぇ』

白い人が仕方なさそうにそう答える。
すると、侑子さんは私の方を振り向いて洋服がけを指差した。
指示に頷いて、洋服がけが彼らにちょうど見えるだろう位置へと
静かに移動させる。

モロがハンガーごと服を1着だけ取り出して、4人に見せた。

『わたしの服!』

女の子が驚いたように服を見て声を上げる。
黒い人が機嫌悪そうに人差し指を振って、寄越せと言う。
だけど、侑子さんは首を横に振った。
ああ……何か今の侑子さんすごく楽しそうだね……。

「これは、一度あなた達の手を離れて今はあたしの元にある。
 返してほしいならば対価がいるわ」
『何をお渡しすればいいですか』

侑子さんの等価交換の言葉に、少年が問いかけてきた。

んー、あの少年は君尋と違う意味ですごく真面目そうだな……。
うん……アレだ、真面目も真面目な生真面目?
そんな風だから自分のことは必要以上に、どんなことでもひとりで
全部抱えこんじゃうような感じがする。

君尋とかも抱え込む時があるんだけど、侑子さんたちのおかげで
はっちゃけることは出来てるしね。
それに……何か違和感があるような気がするのは気のせい?
あの子もだけど……あの女の子も似たような感じがする。

白い人は本心を見せないような笑い方だし、あの中で言うなら黒い人が
普通に見えるような気がするんだけど……。

「この服に見合うものを。――考えついたらモコナにいってあたしを
 呼び出しなさい、それまで預かっておくわ。でもあんまり長く
 待たせると流しちゃうかもね。質流れみたいに」

侑子さんが4人に向かってニヤリと笑った。

し、質流れって……。
いやまあ、確かに等価交換がなされないなら他の等価があれば
そうなるかもしれないけども……。

なるほど、侑子さんこれがあるから楽しそうだったのか。
あー黒い人と少年がショック受けてる……。
白い人と少女は首を傾げてるけど。
そういうことを知ってる人と、知らない人なんだねー。

マルとモロが洋服がけを片付け始めたから、私もそれに続く。
対話が続く部屋を出て宝物庫へと戻った。
そして洋服掛けをいつでもブラシをかけることができるようにと、
部屋に入ったすぐ傍の壁際に置く。

あ……そういえば……。
侑子さんの等価交換してる場面って初めてみたかも――私、
自分の渡した記憶ないし。



バタン!
ばたばたばたばたっ




玄関先からした大きな音と走る音に驚いて、私は振り向く。
君尋が帰ってきたんだろうけど……何だかいつもより早いような。
侑子さんの所に向かってるみたい。
今日は夕飯の買い物してこなかったのかな?

「百目鬼の目が!! ――止めたのに、自分家に帰っちまって
 あのばかが!!」


……君尋?

慌てて侑子さんの所に戻ってみる。
すると、焦る君尋の頬に向かって侑子さんが静かに手を伸ばす。
そして見えにくい糸を手に取り、怖いほど静かに言った。



「恨みをかったわね」





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