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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第4章 台風3号 マワルウンメイ(3)





袿の上に羽織を肩にかけて玄関に行くと、君尋がぶつくさ言いながら
靴を履いている所だった。
一瞬だけ戸惑ったけど、私はようやく重い口を開く。

「――君尋……」
「あっ、雪里さん! おはよう!」
「おは、よう」

名前を呼ぶと、すぐにぱっと振り向いて笑ってくれた。
それでも心に纏わりつく戸惑いは消えない。

「でも珍しいね……雪里さんが寝坊するなんて。もしかして昨日は
 眠れなかったとか?」
「いや、別にそんなことはないんだけど……あの……君尋?」
「うん? 何? 朝御飯はキッチンに置いてあるよ」
「じゃなくて、えっと――今日はちょっと周りに気をつけて歩いてね」
「へ?」

自分でも良く分からないというように、首を傾げながら言う。
君尋は目を瞬いて不思議そうにそれを聞いていたけど、笑顔で
分かりましたとひとつ頷いて店を出て行った。

何なんだろう……?
このざわつくような不思議と気になる感じは。
もしかしたら、君尋たちに何か嫌なことが起こるかもしれない。
……侑子さんに少し話を聞いてもらった方がいいかもしれないな……。

とりあえず、君尋がせっかく作っておいてくれたんだから、
朝御飯を食べてからにしよう。
侑子さんはきっと、お酒二合にいじけてるだろうから。

着替えて、朝御飯を食べ終えて。
とりあえず侑子さんに今朝の夢の話をしに行こうとすると、
玄関から人の声がした。

「すみません」
「ん? お客かな……? はーい」

お客じゃ仕方ないな……話を聞くのは後にしよう……。
返事をして玄関に駆けていくと、玄関にひとりの男の人が立ってた。

さらりとした真っ直ぐな黒髪と眼鏡。
浮かべる静かな微笑みが、外見よりも大人っぽい雰囲気が漂わせる。
外見通りの年齢なら、きっと高校生か大学生くらいなんだと思うんけど、
何だかすごく不思議なひと……。

玄関先から私を見上げて、彼は優しい笑みのまま問う。

「どうも初めまして。店主はいますか」
「はい、今呼んで」
「あたしならここにいるわよ」
「おや」

落ち着いた声で問いかけられて答えようとした時、後ろから声がした。
振り向けば、髪留めに百合を挿した黒い服の侑子さんが立ってた。
侑子さんは男の人を見下ろすと、溜息をつき。
男の人は侑子さんを見上げて、またにっこりと笑って。
それは私に向けたような微笑みじゃない気がした。

侑子さんのこんな反応初めて見る……。
やっぱりこの人は見かけ通りじゃないのかな……?

私はひとり取り残されたような雰囲気に困り果てた。
とりあえずはお客の対応と同じように、私が応接間に案内して、
好みを聞いてから紅茶を淹れる。
邪魔にならないよう退室しようとしたら、侑子さんに呼び止められた。
男の人にこにこしながら黙っていて、顔をしかめようともしない。
まるで私が、ここにいるのが当たり前のような。

……何で?





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