「紹介するわね、雪里。こっちはあたしの、そうねえ……
まあ……知り合いよ」
「そうなんですか……。えっと、どうも初めまして。私はこの店で
バイトをさせてもらっている仲野雪里です」
「こちらこそ初めまして、僕は柊沢エリオルと申します。
どうぞよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
へえ、エリオル君っていうのか。
何か珍しい名前だなあ……。
さらりとした黒髪だから、何となく日本人に見える。
だけど、やっぱりハーフかクォーターなのかもしれない。
にっこりと微笑んだエリオル君は、静かに侑子さんの方を見やる。
「本当は侑子に対しても“初めまして”なんだけれどね」
「ああ……そういえばそうなのよね。まったく変わらないから、
そんな気がしなかったけど」
「侑子も変わらないね」
「あんたは背がちっちゃくなったけどね」
「あはは」
侑子さんはエリオル君の言葉を聞いて、たった今気がついたみたいに
ひょいっと肩をすくめて、紅茶を飲む。
……あれ?今のって少しおかしいよね?
お互い“知り合い”なのに、“初めまして”って一体どういうこと?
内心首を傾げてると、エリオル君は私の方に振り向く。
そして、やっぱり落ち着いた声で私に聞いた。
「雪里さんは“前世”や“生まれ変わり”というものを信じますか?」
「え……」
私が少しだけ目を見開く。
エリオル君はただ静かに微笑んで、私を見つめるだけ。
侑子さんは何も言わずに紅茶を飲んでいる。
うーん、前世に生まれ変わりかあ……。
記憶がないから、そういうのに対して前がどうだったか分からない。
正直なとこ信じるか否かでは、何とも言えないんだけど――。
「まあ、実際にあっても不思議じゃないとは思いますね。それに
侑子さんのとこで色々見てきたので……そういうものが絶対に
ないと言い切ることなんて出来ませんから」
「……ありがとうございます」
「あ……いえいえ」
実際に見たのもあれば、聞いたのもある。
もちろん、宝物庫にも色々なものがたくさんあるしね。
それに仏教には、輪廻転生なんていう言葉もある。
色々な方向から考えれば、前世も転生もあると思う。
曖昧にしかならなかった私の答え。
それでも嬉しそうに頷くエリオル君は、どこか大人っぽく見える。
もしかして私より上なのかという考えも、少し沸いてきた。
「……侑子と知り合いであるのは“柊沢エリオル”という、今の僕ではなく、
僕の“前世”が知り合いなんです。僕はちょっと人より持っている力が
強くて……“前世”の記憶を持ち合わせているんですよ」
ふわりと笑んだ表情はどこか浮世離れしてる気がした。
黙って話を聞いている侑子さんと、持ってる雰囲気が似てる。
それに――すごく誰かに似ていた。
包み込むような微笑みは、その全てが同じじゃない。
“あの”微笑みは“いつも”穏やかで包み込んで見守るようで、
だけど少し淋しそうな色をしていて……。
なのにエリオル君の微笑みは、すごく似ている。
“あの人”の微笑みに――
パ キ ィ ン
頭の中で何かが割れた音が大きく響き、全身に木霊する、
ゆっくりと目の前がブラックアウトしていった。
NEXT.