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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第4章 台風2号 ネガイノキオク(3)





記憶を代価にしてまで、叶えたかった願い。
願いは、何だったんだろう……。

ぼんやり考えてると、こっちに向かってくる足音が聞こえてきた。
数秒遅れて、マルとモロという女の子たちが襖を開ける。
そして後ろから、両手でいくつかの食器が乗るお盆を持った
四月一日くんがそっと入ってきた。
ぱちっと目があった私に、四月一日くんが優しく微笑む。

「えっと、とりあえずさっき作っておいたお粥を温めてなおして
 みたんですけど……食べられますか?」
「ありが、とう。何とか、食べられ、そうかな」
「良かった」

静かに床に置いたお盆。
その上には、ほかほかと湯気をたてる白いお粥が盛られたお茶碗と、
梅干やのりや鮭が綺麗に分けられた小皿、水の入ったコップがあった。
とりあえずひとりで起き上がってみようとすると、女の子たちが
近寄ってきて上半身を起こすのを手伝ってくれた。

「本当は卵粥にしようかと考えたんです。でもそれってやっぱり、
 味の好みがあると思って。……だからあまり工夫を凝らさないで
 シンプルに白粥にしてみたんですけど……」

四月一日くんはテキパキとベッドの上に小さな卓上を乗せて、
その上にお盆とレンゲを置いて話をしてくれる。
背もたれにとクッションをいくつか背中の所に置いてくれたり、
こっちから動こうとすればすかさず手を貸してくれた。

私がちょっと驚いたのは、それは“気遣い”としてのものじゃなく、
“本心”からの行為だと分かることだ。
……四月一日くんって……世話好きなのかな?
それとも、そういう性格なのかな。

レンゲを落とさないように、力が入らないながらも慎重に持つ。
ゆっくりと持ち上げて、少し冷ましてから、はくりと口に入れた。

「わ……。こ、のお粥……すごく、おい、しい……!」
「そうですか? ありがとうございます」

照れくさそうに笑う四月一日くん。
でも本当にすごく美味しい……温め方も熱すぎず、冷めすぎず。
塩加減もばっちりで、添えてくれた梅干とか使わなくても、
このまま全部食べれそうなくらい。

すると、横からまるで自分のことのように腰に手を当てながら、
自慢げに笑って侑子さんが言う。

「ふふふ、四月一日が作るご飯はとーっても美味しいのよ。
 存分に味わいなさいな」
「って、だから何でそこで侑子さんが威張るんですか!?」
「あら。だって、あたしが四月一日を雇ってなきゃ、この子は
 こうして四月一日のお粥食べれなかったのよ?」
「それとこれとは関係ない気がするんですけどねっ!!」
「うふふ」

……うーん、これは……。
四月一日くんはもしかして相当に出来る子だったりして……?
すごくキレとタイミングが分かってる。
まったくの素で出来る子なんて、そうはいないとは思う。
ただ、徹底するならその姿勢を貫いた方がいいかもしれないな。
迷いなんて捨てた方がいい。

――うん?

というか、どうしてこんな意味不明なことを考えてるかが問題だよ。
……キレとタイミングって何なの?
思い出すというほどではないと思うんだけど……何なんだろう?
何て言うんだったか……あ、デジャ・ヴ?

おっと、肝心な事を聞くの忘れてた。

「……ゆう、こ、さん」
「あら、なぁに?」
「私は……あな、たに、名前を……つげま、したか?」
「ええ」
「わた、しの名前、は……」

侑子さんは私の目をじっと見て、はっきりと言った。

「あなたの名前はセツリ――仲野雪里よ」





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