「……うわあっ!?」
私と目があった瞬間、向こうは驚いてびくりと肩を揺らした。
白い三角頭巾と割烹着が妙に似合う、細身の男の子。
その肩には、何だかよく分からないけれど、黒いおまんじゅうに
ウサギの耳と手足が生えたような生き物がいた。
後ろからは瓜二つな、けれど髪型と服装が違っている女の子たちが
じっとこっちを見てる。
――あ、しまった。
「お……お……どろ、かせて、ごめんね」
「へっ!?」
「……え、と……」
体と一緒で口も上手く動かせないけど、ぎこちなく謝ってみる。
すると、驚いてた男の子はようやく我に返ったらしい。
ぶんぶんと首と手を大きく横に振った。
「いっいえ、大丈夫です! あの……気分とか悪くないですか?」
「それは平気……でも、体が上手く、動かせ、ないかな」
麻痺とかそんな感じじゃなくて、がちがちに凝り固まった感じ。
鉛みたいに重いから、上半身さえ起こせないし。
「そうですか。あのちょっと待ってて下さい! 今――、あ」
小さく溜息をつくと、また戸が開いた。
今度はさっきとは違って、ガラリと少し大きめな音だった。
目に入ったのは、風でさらりと空になびく黒髪。
珍しく着物を纏った女性が、しなやかに立っていた。
女性が着ている着物は、昔ながらのきっちりしたものじゃない。
中々凝ったデザインの着物で、堅苦しくは見えなかった。
「ようやく起きたようね」
私を見やる女性に、男の子は安堵の笑みを浮かべた。
「侑子さん! 良かった、今呼びに行こうと思ってたんですよ」
「ええ。四月一日、何か軽い物でも作ってあげてちょうだいな」
「あ、そうですね! 分かりました!」
「お手伝いー♪」
「お手伝いするー♪」
女性の言葉に男の子は頷く。
私に一礼してから、楽しそうな2人の女の子と一緒に、部屋から出て
ぱたぱたと走っていく。
ちなみに黒ウサギのおまんじゅうはぴょこんと高く飛び跳ねて、
男の子から女性の肩に乗り移った。
ぼんやりとその女性を見上げてると、女性はくすりと笑う。
ベッドの横にあった椅子に座ると、私をじっと見やった。
何かを見通されてるんじゃないかと思えるほど、黒く深い瞳。
人によっては恐怖を覚えるかもしれない。
もしくは、私のように圧倒されるかもしれない。
でも私の感じる“圧倒”は、威圧じゃない。
「……あ、の……わ……たし」
「動けないなら無理して動かなくていいわ。もちろん、話すこともね。
貴女は長いこと寝ていたんだもの、当たり前よ」
「え……」
長いこと寝てた?
それは、どれくらいの時間?
私の中に答えはなかった。
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