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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第4章 台風の目 エゴイズムの哀しみ





浮かぶ、浮かぶ。
暗闇の中にぽつんと、ただ独りでいたそこに。

浮かぶ、浮かぶ。
知らずに己の感情から、生まれ出でた。



せつり……」

小さく小さく、そっと名前を呼ぶ。

それが私に赦されるのか、未だに分からないから。
深く漂うように眠った少女にゆっくり近づく。
おそるおそる手を伸ばして、頭を撫でる。
眠る表情が、ふと和らいだ。

とたんに、いとおしさが押し寄せる。

ああ――どれほど私は重い罪を。
どれほど私は酷い仕打ちを。

この子に強いてしまったのか――。


「すまない、雪里……。お前だけにこんな荷を
 背負わせてしまっている……」

とても悲しいだろうに。
とても辛いだろうに。
とてもとても、痛いだろうに。

「……泣いてもいい。もう嫌なのだと、苦しいのだと叫んで、
 私のことを恨んでもいいから……」

『――嫌だ。そんなこと、間違っても絶対にしない。
 深い思考に漂うのは嫌いじゃない。だけど、昏い感情に
 振り回されるのだけはごめんだから。他人を自分の身勝手な
 感情で、傷つけたりしない』

ふいに、無音で感じた少女の声が私の頬を叩いた。

どうしてこの子はこんなにも暖かいのか。
その気でなくてもこうして傷を癒す。

脳裏に蘇る。
優しい一組の男女と、背中合わせの青年を。

「……ああ、本当に強く優しく育ったな。彼らに任せて、本当に、
 良かった……」

私では駄目にしてしまうから。
誰のこと、と感じた声に胸が痛む。

「……今はまだ辛い思いをさせてしまう。だが……せめて、
 いつも笑って前を向けるようにと、願っている……」

私が常に干渉することだけは、許されない。
自身が痛感するほどに、理解している。

目覚めれば覚えていないこの干渉さえも、本来は危うい。
それでも――それでも――。


『ねえ、貴方は誰なの? どうして私のことをそんなに気遣ってくれるの?
 とても強く想ってくれるのは、どうして?』

「……雪里……」

無理やり、意識をシャットダウンさせて干渉を断ち切る。
今はこれだけでも限界に近いというのに、気配が消えた瞬間、
いとおしさが増して、後悔が募る。

ああ、どうか。
あの子に――我が海の祝福が届くよう……。





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