それまで周りは明るかったのに、強い風が吹いた瞬間、
いきなりかき消されたように真っ暗になった。
色も、光も、全てなくなる。
ゆっくり倒れた所は、冷たくはないけど暖かくもなかった。
ただ頭を支配するのは、すごく眠いことだけ。
何も考えさせまいと私を深い深い水底へ誘う。
深い藍色――数多に浮かぶ金色。
まるで海に仰向けに浮かびながら、星空を見上げる感じ。
どこかは分からないけど、静かなのにとてもとても優しい場所。
ああ、誰かに見守られているような気がする。
『……すまない、雪里……。お前だけに、こんな重い荷を
背負わせてしまっている……』
ふいに現れた声の主。
今まで感じていた“誰か”だと、私は深い所で思う。
その人は、いとおしそうに私の頭を撫でた。
でも、大きな掌は触れるか触れないような位置で動いている。
ゆっくりと、ゆっくりと。
壊れてしまわないか、極端に恐れているみたいに。
絶対に傷つけてはいけないと思っているみたいに。
罰を、背負ってるかのように
――まるで。
『……泣いてもいい。もう嫌なのだと、苦しいのだと叫んで、私のことを
恨んでもいいから……』
嫌だ。
そんな事間違っても絶対にしない。
深い思考に漂うのは嫌いじゃない
だけど、昏い感情に振り回されるのだけは絶対に私はごめんだ。
他人を自分の身勝手な感情で、傷つけたりしたくない。
『……ああ、本当に強く優しく、育ったな。彼らに任せて、本当に、
良かった……』
それは誰のこと?
『……今はまだ辛い思いをさせてしまう。だが……せめて、いつも笑って
前を向けるようにと、願っている……』
ねえ、貴方は誰なの?
どうして私のことをそんなに気遣ってくれるの?
とても強く想ってくれるのは、どうして?
『……雪里……』
……貴方はどうして……。
そんなに悲しそうな声で、私の名前を呼んでいるの――?
「――う……?」
ゆらゆらと目の前が揺れている。
ぼやけた視界の向こうに茶色のものが見えてきた。
……あれは……天井?
しばらくすると、目が力を取り戻してくる。
何もかもはっきり見えるようになって、横になっていると気づく。
背中の下にあるのはベッドだ。
顔を動かして周りを見る。
薄暗いけど、何だか落ちつける部屋の中だった。
「……?」
ふわふわと漂ってくる、優しい香りがする煙をたどる。
すると、目はベッドの横の小机に置いてある小瓶に行きついた。
……ああ、これきっと御香だ。
体が上手く動かないから視線で部屋の中を観察してみる。
すると、ふいに遠くから声が消えてきた。
『『お世話ー♪ お世話ー♪』』
『モコナも手伝うぞ!』
『あーもー! 分かったから静かにしろって。起きちゃうだろーが』
甲高い声が3つと、少し低めの声がひとつ。
足音が近づいて、カラリ……と静かに戸が開いた。
NEXT.