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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第3章 台風10号 ただ、自己満足ですから(3)





「……世界にただ独りだけになったような、孤独と不安と喪失感で
 その時の私はボロボロだった」

鮮明な、鮮明な。
真っ白な世界の中で、対価をと引き離されて。
その瞬間から、私はただひとりきり。

「でも――そんな時に、私を救ってくれた人がいた」

あの人は優しく笑って。
ここで探すといいと教えてくれた。
何も考えられなかった私に居場所をくれた。

「その人はとても暖かくて、優しくて、いつも心配してくれた
 素敵な人だった」

ただいまと言える家を与えてくれた。
元気でやんちゃで、真っ直ぐな弟を与えてくれた。
ひとりきりの私に家族をくれた。

「世界にただ独りだけだった私の、“母さん”になってくれた」


私を包んで温もりを与えてくれた人は、もういない。
世界に残されたアレンたちや、エドやアルたちのように、
会えないのではなくて―――。
あの人は、もう、どこにも“いない”。

「だから私は“おかあさん”っていう人には、きっとすごく弱いのかも
 しれない。もう会えないあの人を思い出すから。だからこれは……
 絶対にあの人を忘れたくないんだっていう、私のエゴ、なんだよ」

トリシャ・エルリック。
――母さん

私に“おかあさん”という安らぎを初めてくれた人。
今はどの世界に行っても、もうどこにもいない。
あの人は、逝ってしまったから。

「別にいいんじゃない」
「ドロシー?」
「人なんてエゴの塊でしょ。それなら貫いていけばいいんじゃない」
「……ドロ、シー」
「でしょ」

それ以上は何も言わないで、ドロシーは水彩画を進めていく。
私はしばらくドロシーの無表情の横顔を眺めてたけど、
ふいに笑みが浮かんでくる、

そうだね……確かにそうかもしれない。

幾千万の動物の中においても私たち“人間”だけは、他には持つことのない
“色んな欲”を持って、こうして生きてる。
人間はただ、エゴの塊みたいなものを抱えて生きてるんだね。

だからこそ――私はエゴの塊なんだ。

ねえ、白雪。
私はこんな身勝手なエゴイストだけど。
白雪はまだ会えるはずだから……いいよね……?
私はあなたを、探し続けるよ。


――にゃあう……





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