「そういえばセツリ」
苦笑げに肩をすくめてた私に、ドロシーが声をかける。
私は軽く首を傾げる。
「んー? 何?」
「どうしてあんなに“母体”に必死だったの?」
「……あー……そのことね……」
「気になってたのよ」
ドロシーと名前を名乗りあった時。
私の接し方は、まったく何もないように普通だった。
それがドロシーの爆弾発言で彼女が母親であると知ったとたん、
私は必死になってドロシーを危険に晒さないようにしだした。
まあ、今となってはちょっと自分でも驚くくらい、ちょっと過敏に
反応しすぎてたかなあ……とも思う。
確かにあんなに慌てたことは、D.グレの世界でも鋼の世界でもあまり
なかったような気がするし。
慌てるというよりも、切羽詰ってたというか?
経験からすれば、もっと冷静に対処とか出来たはず。
だけど、どんなに無自覚でも精神的に重大だったのかもしれない。
そんな風に今更ながらに気づいて、自分に笑えてくる。
私は独り言みたいに、静かに言葉にした。
「……ここに来る前にいた世界で、私は命と同じくらい、すっごく
大事にしてた子を突然連れていかれた」
――鮮明な姿。
「その子はいつもいつも、私を支えてくれてた可愛い子」
――鮮明な仕草。
「彼女をただの造ったものと思えないほど、大好きだった」
――鮮明な瞳。
「それでも、あの子は連れて行かれた」
――鮮明な声。
何も分からない世界で。
私と、白雪は。
NEXT.