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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第2章 台風11号 強さに適うものは何でしょう?(3)





「アール」

名前を呼ばれて振り返ると、セツリがこっちに歩いてきた。
セツリは母さんに助けられたっていう人で、その時に僕と兄さんにも
会ってるみたいだけど……僕と兄さんはそのことを思い出せない。
セツリは笑って 『幼かったから』 と肩をすくめてた。

でも……僕にはあの時セツリが……。

「どうしたの?」
「うん? ちょっと語らいたいなと思ってね。イーストシティでは結構
 慌しかったし、あんまり話せなかったから……と、いうのは建前。
 実は、ピナコさんがちょっと昔のことを話しててね」
「そうなんだ。ごめんね、僕たち、全然思い出せなくて……」

くすくすと笑うセツリに、僕はまた謝る。
するとセツリはきょとんとする。
だけど、すぐに笑顔に戻って横に首を振った。

「アルもエドも気にしすぎだよ。私は本当に気にしてないから、
 そうやって謝るのは止めてね?」

ぽんぽん、と手のひらで軽く僕の頭を叩いてにっこりと微笑んだ。
ふと、何故だか僕の感情がざわつく。
そして無意識のうちに、僕は言葉を発していた。

「――どうしてセツリは……僕のこの体のこととか、聞かないの?」

ただ、母さんの笑顔がもう一度見たかった。
だけどその対価は僕の身体を、兄さんの足を持っていった。
そして兄さんは、連れていかれた僕のことを助けようと自分の片腕を
差し出して、僕の魂を練成してこの鎧に定着させた。

……でも、今まで僕の鎧の中を見た人は 『中身がない』 と
驚いていたのに……セツリだけは鎧の中がからっぽだと知っても、
どうしてだか僕たちに理由を問いかけてこない。

まるで……何もかも知ってるような笑みを浮かべるのは、
どうしてなの……?

そしてその笑みはどうして――。

「……アル」

しばらく黙っていたセツリは、静かに僕の名前を呼んだ。
ただまっすぐに、セツリは僕のことを見てくる。

「アルにとって、その身体はどういうもの?」

どんな風に答えたらいいのか。
セツリがどんな答えを欲しがっているのか。
それが分からなくて、とっさに答えようとした言葉が詰まる。

この身体は兄さんがくれたものだ。
片腕を差し出して魂を戻して、定着させてくれた身体。

そこまでしてくれた兄さんを恨んだことなんてない。
恨むなんてことが、出来るわけないんだ。

それじゃあ、僕にとってこの身体は何……?

「私は……その時、二人の処にいなかったから、よくは分からない。
 でも、私はアルの身体を否定なんてしないよ。身体がどんなであれ、
 アルはアル……それだけなんだから。エドの右腕と左足もね」

くるっと背を向けて軽く空を仰ぐセツリ
だけど、すぐに僕の方を振り向いて微笑んだ。

「覚えておいて、アル。結果はそうだったのかもしれない。
 だけど、その動機は? その過程は……? 他人から見たら確かに
 結果が全てかもしれない。それでも私は、罪と罰が全てイコールで
 結ばれるとは思えないこともあるんだ。……こうしてある結果を、
 そうだと決めつけるには、まだ早いからね」


それだけ言うと、セツリはその場をゆっくり離れていった。



ねえ、セツリ
今の言葉……僕には何だかよく分からなかったけど。
いつかは、それが分かる日がくるのかな?

ただ僕と兄さんのしたことを、責めたりしないのは分かる。
それは安易な同情でも、下手な慰めでもないように聞こえたんだ。

何で手を差し伸べてくれるの?
何でとても辛そうな顔で笑うの?
どうして、僕はそれが懐かしいと思うの?

久しぶりに思いきり泣きたくなった。





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