「少佐……あの子らは毎日、平穏無事に過ごしているだろうか」
エドがデンと一緒に墓参りに行ったあと。
手を動かしながらも、ばっちゃんがまき割りを終えて壁に
寄りかかっていた少佐に、そう聞いた。
私はボードに飾られた写真から、目線を上げてばっちゃんを見る。
エドとアルの間に、ちょうど1人分。
不自然に空いていた写真を見つけた時だった。
「“エルリック兄弟” ……とりわけ兄の “鋼の錬金術師” と言えば、
セントラルでも名が通っておりましてな。最も、それゆえトラブルにも
巻き込まれるようですが……」
少佐はそこで言葉を切って、外へと目線を移す。
「大丈夫ですよ、あの兄弟は強い」
「強い……かい」
手元の作業をまったく休ませず。
ばっちゃんはふと、遠い目をした。
「4年前、自分の腕と引き換えに弟の魂を錬成した時も……大人でさえ
悲鳴をあげるオートメイルの手術に耐えた時も……」
私はその時にここにいなかった。
この場所にいられなかった。
気がついたら真理の所もにいて、そのままここに来た。
とてもとても大切な時に。
私は2人のそばに、いてあげられなかった。
「あんな小さい身体の、どこにあれほどの強さがあるのかと思ったよ。
そしてそこまで強いからこそ、どこかで何かの拍子にくじけて
しまった時、立ち直れるだろうかと心配になる」
エドとアルがくじけそうになった時。
多分……きっと、私はもうここにいないと思う。
自分でもいつ移動するのか分からないけど、その時はもういない。
それは、確信してる。
私にはあと――どれほどタイムリミットが残ってるんだろう?
「あの子らは帰る家を失くすことで、自分たちの道をあと戻り
できんようにしたんだろうよ」
家を出て庭を歩いていると、ぼんやり空を見上げているアルがいた。
私は近づいてアルに声をかける。
「アール」
「あ、セツリ」
近くまで私が来てたことに気がついてなかったのか、少し驚いたように
アルは振り向いた。
私が隣に座ると、きょとんと首を傾げてくる。
「どうしたの?」
「うん? ちょっと語らいたいなと思ってね。イーストシティでは結構
慌しかったし、あんまり話せなかったから……と、いうのは建前。
実は、ピナコさんがちょっと昔のことを話しててね」
「そうなんだ。ごめんね、僕たち、全然思い出せなくて……」
くすくすと笑いながら言うと、アルがそう謝る。
私はそれに目を瞬いてから、にっこりと笑って首を振った。
「アルもエドも気にしすぎだよ。私は本当に気にしてないから、
そうやって謝るのは止めてね?」
ぽんぽん、と手のひらで軽くアルの頭を叩く。
NEXT.