汽車から降りて、ぐぐんっと背を伸ばす。
あー、すっごく腰が痛い……。
やっぱりこの手の汽車には多分慣れることはないだろうな。
昔は馬車にも乗ってみたいっ! とか思ってたけど、椅子が固いせいで
本当に腰は痛いわ揺れるわで……疲れるよ。
いかに現代が発展しているか、思い知らされるねえ。
その分、退化してる所もあるけど。
さわさわと揺れる木の葉と一緒に風を感じる。
とてものんびりとした田舎の空気。
「……さてと……」
そう呟きながら、小高い丘の上にある墓地の中へと私はゆっくり
足を踏み入れる。
ひとつひとつ墓石を見て確かめていく。
すると、探していた名前は案外すぐに見つかった。
― トリシャ・エルリック ―
ここに来る前に買ってきた、小さいオレンジの花束を添える。
未だに消えない柔らかな芳香に微笑む。
手を合わせて目を閉じた。
ただいま、母さん。
いきなり真理の奴の所へ戻っちゃったり、何でまたここに放り出されたり
したのかはよく分かんないけど……勝手にいなくなってごめんなさい。
もしかしたら今度もまたすぐ呼び戻されたりしてて、次は違う所に
行くのかもしれない。
そうなる前に……すぐにここに来ようって思ったんだ。
だって、そのまま行っちゃうなんて出来ないし……。
何せ母さんが、すっごく怒りそうだからね。
本当の娘みたいに接してくれて、嬉しかったよ。
まるで本当の母さんみたいで……私もすごくすごく甘えてた。
母さんあの時、私にこう言ってくれたよね?
帰り方が分からないならここで探すといい。
探して見つからなかったら、ここにいるといいって。
だから帰って来たよ。
――ただいま。
しばらくそうした後で目を開けて、ゆっくりと立ち上がる。
そしたら突然後ろから、声をかけられた。
「……あんた……トリシャのことを知ってるのかい? 随分……
熱心と手を合わせていたようだけど」
振り向くと、箒を手にしたばっちゃんがいた。
全然気配なんて感じようとは思わなかったから驚いた。
一瞬どう答えるか迷ったあと、小さく頷いてみせた。
「はい。昔……少しの間だけお世話になったことがあるんです。
……亡くなったと、つい最近知ったので……」
「そうだったのかい……」
「はい。お掃除、手伝わせてもらってもいいですか?」
「そうだねえ、頼むよ」
私はばっちゃんから箒を受け取って、墓石の周りを掃き始めた。
NEXT.