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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第2章 台風9号 懐かし(?)の故郷で(1)





「……お花……いりませんか?」

その声を聞いたのは、汽車を乗り換える駅の外。
次の汽車が駅に来るまでにはまだ少し時間があるようだから、
近くにあった露店を眺めてた時。

「あのう……お花、いりませんか?」

白い帽子を被った六歳くらいの女の子が、腕に網籠をぶら下げて
駅から出てくる人を追いかけながら、オレンジ色をした小さな花束を
差し出していた。
籠の中には、同じオレンジの花束がたくさんある。

けれど一生懸命な、か細い声を誰もが聞こうとしない。
それどころか、煩そうに目をやるだけだ。

「お花……きゃあっ!!
「危ない!」
「……あ……っ!」

後ろから忙しそうに早足でやってきた男に、ドンッ! と思いきり
突き飛ばされて、女の子が石畳の方へ倒れる。
私は慌てて駆け寄り、しっかりと女の子を抱きとめた。
その衝撃に、女の子は籠を落としてしまう。

籠から零れた何十本のオレンジの花束を、人々はまったく気がつかず、
無残に踏みつけて進んでく。

女の子はその光景に涙を溢れさせてながらも、踏まれてぐしゃぐしゃに
なってしまった花束をゆっくりゆっくりと籠に戻していく。
だけどその手は悲しみを堪えきれず、小刻みに震えてて。

「ひっく……お花……お母さんが育てたのに……」
「……お花、かしてごらん?」
「え?」

私はきょとんとした女の子からぐしゃぐしゃの花を受け取ると、
優しく包み込むようにして掌の中で合わせる。
合わせた手の中で、金色の光がパキンと輝いてから、掌を開いて
女の子に見せてあげた。

「あっ……お母さんのお花、もとに戻ってる!」
「これで大丈夫だね」
「うん!! お姉ちゃん、ありがとう!!」
「いえいえ、どういたしまして」

涙を拭いてにっこりと笑う女の子の頭を撫でた私は、ふとポケットから
財布を取り出す。
そんな私を首を傾げながらきょとんと見ている女の子の手をとって、
財布から取り出したお金を落とさないように握らせた。

「私ね、お母さんにお土産を選んでた所なんだ。お花くださいな」




 
「トリス? トリス!」
「あ、お父さん!」
「良かった、ずっと探してたんだぞ? 1人で出かけたのを見たって
 聞いて……父さん、すごく心配したんだからな」
「ごめんなさい……。でも、でもね! お母さんのお花、売れたの!
 綺麗なお姉ちゃんが買ってくれたんだよっ!!」
「本当かい? それは良かったな……。さあ帰ろう、トリシア」
「うん!!」





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