不愉快だとは思わない。
爽快で自信に満ちた虚空の声。
思わず、口にした。
「……誰も呼ばねぇよ」
ぽつりと呟かれた静かな青年の言葉を、前を歩いていた白髪の青年が
聞きとめて目を瞬かせながら振り向く。
「え? 今何か言いました?」
「……別に。」
イラついた顔をしながら、冷たくそう言い放つ青年。
いつものことなので、彼はその反応を特に気にもしない。
少しだけ、ムッとした顔をしたものの。
「おーい! 二人とも、何してんさー?」
「早く来ないと、追いていっちゃうわよっ!」
2人より少し先を歩いていた、赤毛の青年と黒髪の少女が声をかける。
慌てて、白髪の青年は前を見やって謝った。
「すみません! ……あれ……?」
ふと、空を仰ぐ。
「ん? どうしたんさ? いきなり空なんか見上げて」
「今、誰かが笑って――いえ……多分、空耳です」
聞こえたのは、太陽のような笑い声。
騒がしいものではなく。
誰もが一緒に笑みを浮かべてしまう……。
そんな気持ちにさせる笑い声。
「ねえ、さっき呻き声がしなかったかしら?」
少女が首を傾げて問う。
聞こえたのは、痛みを喰らった時の呻き声。
思わず、同情してしまうような。
とてつもなく可哀想だと思ってしまう……。
そんな気持ちにさせる呻き声。
肩をすくめる、赤毛の青年。
「してないさ。でも、何か叩く音なら聞こえた気がするさ?」
聞こえたのは、爽快に響く良い音。
頭をさすってしまった手に動きを止める。
胸がすっきりするように思ってしまう……。
そんな気持ちにさせる叩く音。
「「「「…………………………。」」」」
一瞬、脳裏を過ぎる笑顔。
一瞬、脳裏を過ぎる姿勢。
一瞬、脳裏を過ぎる武器。
一瞬、脳裏を過ぎる動物。
「……チッ」
「あはははははは、ま、まさかね!」
「だっ……だよなあ!?」
「そ、そうよね……」
勝利の笑みを存分に浮かべながら、白猫を肩にして V サインをつくる
1人の人物。
脳裏を、過ぎた。
「「「「…………………………。」」」
NEXT.