意識が、引き上げられた。
「姉ちゃーんっ!」
「セツリ姉ちゃん!!」
「……ああエド、アル。おはよう」
「「おはよう!!」」
顔を上げると、エドとアルがこっちに走ってくる。
ぴょんっと飛びついてきた2人を受け止めると、座っていたブランコが
キシリと揺れる。
交互に頭を撫でてあげると、笑みがもっと明るくなった。
私が2人の姉になって、何だかんだで数ヶ月が過ぎた。
今ではもう本当の姉弟だなんて村の人たちに笑われるほど。
「それにしてもどうした? こんな朝早くに」
首を傾げてそう聞くと、2人は怪訝そうな顔をした。
「早くって、姉ちゃんいつからブランコ乗って……?」
「朝ご飯だから、おかあさんがセツリ姉ちゃん呼んできてって」
「って朝ご飯? もうそんな時間!?」
もうそんな時間経ってたの?
私が起きてここで本を読み始めた時間からして、朝食の時間はまだまだ
先だったはずのに。
あちゃー、母さんの手伝い出来なかったな。
「ごめんごめん。外が気持ちよくて夢中になっちゃった」
「呼ぶまで気づかないんだもんな、セツリ姉ちゃん」
「あれ? その本、どうしたの?」
アルが覗き込んでくる私の膝元。
そこには、1冊のハードカバーの小説と1冊の絵本がある。
「母さんから頼まれたおつかいの途中、本屋に寄ってみたら偶然
見つけたんだよ。昔から好きだった本なんだけど、まさかここに
あるとは思わなくてついシリーズ全巻ね……あはは」
まさかと思った。
これも偶然なのか必然なのか――。
ある意味、異世界だっていう警告かもね?
私が苦笑しながら本の表紙を撫でると、エドが肩をすくめる。
「ふーん……。でもこの難しそうな小説はともかく……姉ちゃんって、
まだ絵本なんか読んでんの?」
「こらこら、絵本を馬鹿にするんじゃないよ~、エド。絵本は
絵本にしかない魅力がある。だから絵本イコール、子供が読むものって
思ってるのは絶対に間違いだよ」
「そういうもんなんだ?」
「でもこの絵本、すごく絵が綺麗で可愛いね!」
「アルもそう思うよね? 絵本はまともに真理をついてくるけど……
この絵本は “気持ち” とか “関係” とか……そういうことをすごく
考えさせてくれる絵本だよ」
ふと、エドが怪訝そうに眉を潜める。
「姉ちゃん、これ、文字が全然読めねえんだけど」
「読めない? ……ああ……そうか、仕方ないか。すごく今更だけど
英語じゃなくて日本語だしねえ……これ」
「え? 何?」
「いやいや。私には読めるみたいだよ」
「そうなの? ねえ、セツリ姉ちゃん、小説と絵本の題名って何て
書いてあるの?」
「小説は “指輪物語” で、絵本は “誰もいない町” って読むんだよ」
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