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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第2章 台風2号 暖かな笑顔(1)





猫の鳴き声を、聞いた気がしたんだ。
兄ちゃんは本に夢中になってて、全然気がつかない。
だから僕だけ外に出て猫を探した。

庭に出て行くと、やっぱり猫の鳴き声がする。
何だか嬉しくなってきた!
猫の鳴き声がする方に向かって、優しく声をかけてみる。

「出ておいで! 美味しいミルクをあげるよ」



……にゃあ



猫の鳴き声は、ブランコの方からしてくるみたいだ。
うわあ……どんな猫なんだろう?
僕は笑って、そっちに向かって走った。

「ほら、出ておい、で……」

声がだんだん小さくなって、最後は自分でも聞こえない。
今まで経験した事がないくらい呆然と目を見開いた。
ブランコがある木の下に、黒髪の知らない女の人が倒れてた。
どうしたのだろうと、おそるおそる近づいてみる。

女の人は瞳を硬く閉じてる。
息はちゃんとしてるから……死んでないけど、何だかすごくすごく
苦しそう……顔が真っ赤になってる。

こ、この人熱があるの!?

「……に、兄ちゃーん!!」

いきなりのことに慌ててどうしたらいいか分からなくなって、
すぐさま家の中の兄ちゃんを呼ぶ。
誰なんだろう?
――それにあの猫の声は、何だったんだろう。





ちょうど、本棚から本を抜き取った時だった。
いきなりのアルの呼び声に驚いてばさり、と本を取り落した。
あ……足にぶつからなくて良かったぜ……!!
ともかく俺はアルに何かあったのかと、慌てて走り出す。

「アル! どうした!?」
「に、兄ちゃん」

ドアを開けて庭に走ってくと地面に座りこんでおろおろする
アルフォンスがいた。
良かった、別に怪我とかしたわけじゃないんだな……?
でも何でか、アルは弱りきった顔をしてる。

「この人すごい熱なんだ、どうしようっ!?」

アルの手の先を見て、俺は思わず目を丸くした。
だってブランコがある木の根元に、女の人が倒れてたんだ。
風に煽られたような髪はぼさぼさで。
だけど太陽の光できらきら光る黒髪なんて、見たことなかった。

一瞬見とれたけど、すぐに我に返った。
目はかたく閉じてて顔はすごく赤くなってる。
はあはあと肩で荒く息をする姿は、すごく苦しそうだ。

「ど……どうしようって、母さん買い物からまだ帰ってこないし……
 と、とりあえず水とタオルで冷やすしかないだろ!」
「そ、そうだよね、僕持ってくるよっ!!」
「早くな!」

走って家の中に戻ってくアルに、少し心細くなる。
だって俺も病気の人に何すればいいのか、良く分からない。
せめて、ばっちゃんかウィンリィがいればいいのに、
今日は二人とも出かけてていない。
そう思ったとき、女の人が小さくうめいた。

「――ら……き……」
「な、なあ、しっかりしろよ、なあ」
「……ご……め、ん……ね……」

肩を揺さぶろうとして、伸ばした手を掴まれた。
その手の熱さと力のなさに、俺は余計に戸惑った。

「兄ちゃん、持ってきたよ!!」

アルが水の入った洗面器とタオルを持って戻ってくる。
ほっと安心しながら、俺はアルに大きく頷いた。

それから少ししてから母さんが帰ってきて、やっぱり驚いてた。
女の人を何とか3人で力合わせて家に入れて、ベッドに寝かせて、
帰ってきたばっちゃんをすぐに呼んで。
急に家の中は慌しくなった。

俺は、何でか掴まれた手の感覚が忘れられなくて。
早く目が覚めたあの人と話したいって思ってた。





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