私は不自然になりながら、ゆっくり後ろを振り向いた。
っていうか資料にこんなこと……。
いや、別に報告書が全てとは一欠けらも思ってはいないけど。
でも――だからって……。
「――こんにちは、千年伯爵」
こんなことになるとは、思ってもいなかったよ。
振り向いたそこに、奴は立っていた。
派手にデコレートされたシルクハットをかぶり、丸眼鏡をかけ、丸々と
太った体をコートに包み込む AKUMA の製造者。
世界をデスへと導く、闇たちを率いる者。
千年伯爵――。
「……私に何か御用でしょうか? たかがエクソシスト一人に伯爵自ら
出向いてくるなんて、初めてではないですか?」
「これはこれは、理解が早くて助かりまス♡」
「お褒めにあずかり光栄です。この街は伯爵が造ったんですか?」
「ええ、そうですヨ。貴女を招待するためだけにネ♡」
にっこりと笑いながら小首を傾げる伯爵に、白雪が少しずつ
威嚇の唸り声を上げる。
私は何故か酷く冷静だった。
ひらひらと、ほのかに雪が舞ってきた。
唸り声を上げる白雪を優しく撫でて彼女の怒りを和らげながら、
背筋にひやりとしたものを感じつつ問いかける。
「時間がもったいないので、率直に聞かせてもらいましょう。
私を “ここ” に連れてきたのは、伯爵ですか?」
確かに D. グレの世界に行きたいと思ってた。
だけど、どうして “仲野雪里” だったんだろうか?
もっとよくよく探してみれば、私よりもこの世界に来たい子なんて死ぬほど
たくさんいたはずだろうに。
――私がここにいる意味は何がある……?
あってもなくても別にいいと、今まで過ごしてきたけれど。
だからこそ、もしかしたらと――思っていたこと。
「……うーん……その質問は間違いですネ。残念ながら、導いたのは
我輩ではないんですヨ。すみませン♡ 貴女の検討違いでス♡」
「伯爵じゃない……?」
――それなら、誰が。
「知ってますカ? 世界はどうして造られたのカ……♡
どうやって生まれてきたのカ……その、理由ヲ……♡」
世界の誕生?
「ヒントは、人間たちの信じている愚かな神ではありませン♡
我輩が調伏する愚かな神でもありませんヨ♡」
じゃあ “何” が
「無論、AKUMA でもありませんヨ? それなら貴女のことを、
一体誰が舞台の中へ呼びこんだのでしょうカ? ♡」
私を
「貴女は、世界の “本当の創設者” をご存じですカ? ♡」
何故私を呼んだ?
「貴女は我輩の多大なる邪魔をしかねなイ……。我輩にとって貴女は
エクソシストよりも危険人物なのでス。だから――貴女にはここで
今すぐ消えてもらいますヨ♡」
目の前で弾ける白い閃光が街を。
視界を、私の総べてを飲み込んでいく。
アレン、クロス師匠、神田、リナリー、ラビ、コムイ室長、
科学班の皆――白雪……。
薄れていく視界。
そこには、必死にしがみついている白雪しかいなかった。
世界の……本当の創設者って……?
D.グレ編 END