「コムイ室長」
「な……何だい? セツリくん……」
くるりと振り向くと、室長が慌てながら私の様子を見てる。
ドンッ! と、ハンコ待ちの資料を机に置いた。
「手早く済ませて下さいね、科学班の皆が待ってますから?」
「……うん……」
コムイ室長は冷汗をかきながら、とても素直に頷いた。
私は挨拶もせずに、その場をさっさと後にした。
「にゃーう……」
「うん? 大丈夫だよ白雪。ただ濡れて、髪が伸びただけだから」
さっぱりと髪を洗って、部屋で髪と服を乾かしていた私を心配げに、
不安げに見上げてくる白雪。
苦笑しながらそう言うと、ほっとしたように足に擦り寄ってきた。
防水加工のおかげで、比較的早く乾いた団服をもう一度着込んでから、
腰くらいまで伸びた髪を掬い上げる。
「うーん……これ、どうしようか……。何だか切っても切っても
伸びてくるっぽいし、邪魔だから括るしかないか……」
だけど、私は髪ゴムなんか持ってないよ……。
神田は貸してくれないだろーな、確実に!
っていうか、神田が今どこにいるか知らないしね。
「リナリーなら持ってるかも。白雪も行く?」
「にゃん」
いつもと同じく肩に乗ってきた白雪を、笑って撫でてやった。
まあ、ある意味で貴重な体験って所かなあ。
さっき、化学室にリナリーはいなかった。
多分部屋にいるだろうと、私はそっちへ足を向ける。
…… 『どうしたんだ!?』 とか 『新しいエクソシストか?』 的な
視線がちくちくと刺さってちょっと痛い感じがするな。
驚きと好奇心の目線が突き刺さってくる通路をそそくさと抜けて、
リナリーの部屋のドアをノックする。
「リナリー? セツリだけど、いる?」
「あら、部屋まで来るなんて珍しいわ……ね……、……セツリr!?
どうしたの、その髪――って、もしかしなくても兄さんたちね!!」
ノックするとすぐさま顔を出したリナリーは、驚いた表情をする。
でも、瞬時に考察できる貴女はすごいと思います。
「切ってもすぐ伸びるから、髪ゴム貸してくれるかな」
「もちろんいいわよ。あ……それなら私に結わせてもらえない?
私ね、女の子同士でそういうのをやってみたかったの!」
「いいの? それは私も楽だね。お願いするよ」
間違いでした。
しゅるしゅる、きゅっ!
「私とお揃いのツインテール♪」
「……リナリー」
ぎゅっ、くるくるくる、きゅ、しゅるんっ!
「今度はチャイナ風に二つのおだんご♪」
「だから、リナリー」
さっさっ、きゅ、きゅ!
「神田とお揃いポニーテール♪」
「……神田って、お揃いって言葉が似合わないね」
ひょい、あみあみあみ、しゅるしゅるしゅる、きゅっ!
「永遠のアコガレのみつあみ♪」
「……アコッ!?」
しゅっしゅっ、ぱらり!
「スプレーで固定してふんわりパーマ♪」
「うっわ! ありえないほど似合ってない!!」
しゃっしゃっしゃっ、ぐいぐい!
「アップでうなじ見せなきゃね」
「……何のために……?」
「えーっと後は……」
「リナリー、お願いだからもう勘弁して…………」
私は増毛の効果が切れるまで、さんざんリナリーに色んな
髪型にされて遊ばれることになった。
NEXT.