「やー、どうも初めまして。科学班室長のコムイ・リーです。」
「どうも初めまして、
仲野雪里と白雪です。あ、それと……これを。
師匠からの紹介状です」
ポケットからさっきの紹介状を出して、コムイ室長に渡す。
それを引っくり返して差出人を確認して頷くと、コムイ室長は、
はははーと頭をかきながらお気楽そうに笑った。
「いやーまさか、あの人の紹介だとはまったく思わなくてねー。
何せどっかで任務そっちのけで遊び呆けてるか、死んでるんじゃ
ないかーってもっぱらの噂だったもんだからねえ」
師匠の性格からすれば、前者っぽいですけどね。
あの師匠は、絶対に教団のお金とか使ったりしないから……。
そのせいでどれだけ弟子である私とアレンが苦労し――。
あ……アレン、早くここに来るんだっ!!
「それじゃ、僕の後についてきてね」
「はい」
私はコムイ室長の後に従って、でかい逆三角形の乗り物? に乗りこんで、
今度は教団の下へ下へと移動してく。
……こんな原理のよく分からないすごいもの作れるなら、せめて
エレベーターとかエスカレーターとか作って下さいよ。
そう思わないのが不思議だよ、科学班の皆……。
……いやお城にはそぐわないかもしれないけどね……雰囲気は。
って……あれ……?
もしかしてまだ、発明されてないとか?
月が輝く夜。
――夢見が悪かっただけだった。
どんな夢かは起きた時には忘れてた。
ただ、ぼろぼろと涙が零れ落ちて止まらない。
もしかしたら、昼間のせいかもしれない。
『セツリ・ナカノ……お前は黒い未来の流れを変える渦となるだろう』ヘブラスカが私にそんなことを告げるから。
私はなれない、未来の流れを変える渦にはならない。
全てじゃないけど先を知ってるから。
告げられたことが、まるで異分子だと言われているようで。
何故ここに来たのかと、厳しく詰問されたようで。
――私には分からなかった。
でも、帰りたくないと心のどこかで叫んでる。
まだ帰れないと、頭の片隅が警告を出してる。
それでも、ここにいていいのかと湧き上がってくる考え。
きっとそんな答えは、あるはずがないのに。
誰が私をここへ連れて来たんだろう?
「にゃあ……」
(ご主人様)
「……しら、ゆき」
ゆっくりと下を向くと、白雪が私のことを見上げてた。
この子もいなかった存在……私が創造した存在。
白雪がいるのは、私がここにいるからだ。
「にゃあ、にゃう……にゃあ!」
(泣かないで、泣かないで下さい……私がいますから!)
何を言おうとしてるの?
何を伝えようとしてるの?
「……ごめん……ごめんね……白雪」
「ふにゃあ!」
(謝らないで下さい!)
違うと、叫ぶように私の言葉を遮って鳴く白雪。
もどかしいのを押さえきれないのか、激しく翼を動かす。
4本のしっぽが、イライラと揺れている。
深い青の目は泣きそうな色をしてた。
「しら……白雪……」
返事はなく、揺れていたしっぽがしゅんと項垂れる。
ざらりとした感触が小さく頬を撫でた。
白雪を抱き締めると、頭を擦りつけてきた。
「にゃああ」
(私が存在理由になってみせます)
「大丈夫……もう大丈夫だから、白雪」
「にゃう」
(私はずっと一緒にいます)
「一緒にいるから……」
この子を初めて見た時から、どんな時でも命のない、
ただのゴーレムだとは思ったことはない。
出来るならばご主人様の心のより所になりたい。
私にとってセツリ様はただのご主人様ではないから。
私の白雪。
せめてものご恩返しを。
NEXT.