「目が覚めた?」
ぼんやりとする視界の向こうに、栗色が霞んで見えた。
……この柔らかな声からして……女の人かな。
口を開こうとすると、慌てて止められる。
すごくだるかったから少し安心した。
「ああ、無理しないでいいわ。覚えてるかしら? 貴女は、うちの庭先で
熱を出して倒れていたのよ」
……そんなの、全然覚えてない。
ゆっくりと首を振ると、女の人は優しく言った。
「そう……。まだ熱があるから、もう少し安静にしないといけないわね。
このまま寝ていいから安心してお休みなさい」
額に冷たさが広がった後で、頭の上でほんのりとした温かみが
上下に動く。
そして、温かみがふっとなくなった。
その時に頭を撫でられてたんだと、初めて分かった。
顔が熱くなった。
気恥ずかしさからじゃなかった。
「……あらあらっ……!」
ぼろぼろと目の両端から耳に向かって、涙が零れ落ちる。
顔を伝う濡れた感触が、かなり懐かしく感じた。
最後に泣いたのっていつだっけかな。
「……大丈夫よ、大丈夫……そんな風に泣かなくてもいいのよ……。
もう貴女の怖いものは、どこにもないのだから」
こわい、もの。
しばらくそうやって子供のように撫でられながらなだめられてると、
自然にゆっくりと涙は止まってきた。
熱もあるせいか、酷く重い眠気が襲ってくる。
「さあ、寝ましょうね」
私はその言葉に甘えて眠りに入ることにして、うつらうつらとする。
完全に眠りに落ちる前に、扉の向こうで声が聞こえた気がした。
『おかあさん! あのおねえちゃん、大丈夫なの?』
『すごい熱があったよ……?』
『大丈夫よ。もう少し静かに休ませてあげましょうね』
『『うん!!』』
NEXT.