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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

傍観の円舞曲-円舞曲- 第14曲



 


ふっ、と目が覚め。
フェルはぼんやりと腕の中から顔をあげた。

机の上には書きかけの手紙と封筒がある。
手紙に書くべきことは数えきれないほど多いはずなのに、
何故だかたった数行しか書けていない一枚の便箋。

フェルは小さく息を吐くとゆっくりと店へ戻り、
窓辺に置かれた水盆の中へと小粒の紫の石を入れる。
たちまちその石は水に溶け始めた。
キン――と、フェルにしか聞こえない音が響く。



いわば、結界である。



日光、月光をよく浴びせた聖水へ入れたのは、
魔避けの力を持つアメジストの欠片。
この建物全てにおいて、護るためのものを強化したのだ。
とはいえ、石が溶け消えるまでの一時的なものだが。

そうでもしなければ、向かいのアパートから漏れてくる
とてつもなく強い力に視せられてしまうのだ。
あのアパートにも強い結界が張ってあるというのに、
ふとすればこぼれてくる。
それほどに彼は弱り、それほどに彼の力は強い。

現にフェルは力の余波をうけたからこそ、
こうして目覚めたのだから。

目を閉じれば冷える体温と、虚空に呑まれる影。
視せられていた夢に、机を振り返った。

手紙の宛先は、己の両親とその親友。
久方ぶりに自分の所へ手紙を送ってきた両親。
しかしとてつもなく長々長々とした手紙であり、
つい苦笑してしまったのは昨日のことだ。

何せ明日は、生涯、一度だけ誓った日。

便りがないのは元気な証拠だと自ら証明しているせいか、
彼らはめったに手紙を送ってこない。
毎年、明日を目前にして送られる手紙だけが唯一の。

「……いつまでも、私は彼らにとっては子供なんだね」

特に養父と養母には。
他愛のない文章のように見えるが、
きちんと心配と慈しみが詰め込まれている。

「おじさん?」
「どうしたんだい、雪里」
「あのねー、なんかおみせにはいれなくなってるぞって、
 とおるおにいちゃんが、そとでおこってるよ」
「ああ……。今日は徹君が依頼品を取りに来る日だったね。
 これを渡して、五分待ってて下さいと伝えなさい」

フェルは苦笑して、雪里の手に
フ●ブリーズ (アクアマリン) を渡した。





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