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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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傍観の円舞曲-ワルツ- 第15曲



 

静かな店の中に、ガタリと物音が響いた。
雪里は、最近友達になったという可愛らしい
双子の小学生の所へ朝から遊びにいってしまった。
なので、少女ではない事は明らか――。

フェルはドアを開けて店をのぞく。
茶色い物が、外へ出て行くのがちらりと見えた。



とてとて、とてとて。
歩いているのか走っているのか。
茶色い物より先回りして、目的地へと向かう。

ふいに、誰にも聞こえないだろう
静かで優雅な美しい笛の音が聞こえてきた。

目線をやると、木の下に烏帽子をかぶった男が立っている。
淡色の直衣をまとい、笛を吹く姿はどこか薄い。
男は一通り笛を吹くと、満足げに笑んで空を見上げた。

「素晴らしい音をありがとうございます」

フェルが微笑んで声をかける。
すると振り返った男は、嬉しそうに目を輝かせる。

『そうか? そう言われると俺も吹きがいがある』
「久しぶりに情緒ある曲を、聴かせていただきました」
『昔、良く吹いていたものだ』

とてとて、と足音がした。

『博雅ー!』

ぴょんっと思いきり飛んだ茶色い物は
わしっと男の胸元にしがみつく。
その茶色い物の姿に目を思いきり丸くした男は、
危うく手の中の笛を落としそうになった。

『げ、玄象!? お前どうしてこんな所に!!』

茶色い物の姿は、琵琶に細長い無視のような手足が生えたもの。
きっと、人にはただの弦楽器として見えるのだろうが。
思いや念いが込められ、化生となった異界に通じる存在。

巡り巡った後にフェルが “保護” していたのだ。
フェルに見えないはずもなかった。

「貴方の音に惹かれたのでしょう。今まで寝ていましたから」

心を揺らし、揺らし、揺さぶる音色に。
魂を起こされその元へ急ぐほど。
神に愛されしこの男の所へ。

「私も、惹かれましたから」

男は玄象に引っつかれながら、照れたように笑う。
その背に桜の花吹雪が見えた気がした。

静かながらも、騒がしい都が。

『所で……何故そなたに玄象の姿が見える?』





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