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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

傍観の円舞曲-円舞曲- 第6曲



 


店の中には、歌声が満ちていた。

「あーめあーめ、ふーるふーる、とーさんがー」

窓の外で降り続く雨を見て、雪里が歌っているのだ。
しとしと降る雨音と歌声以外には何も聞こえないので、
フェルはその二つに聴き入っていた。
大地のバイトもなく、来る予定の客もない。

「くーるまーでおーむかーえ……」

ふと、雪里の歌がピタリと止む。
フェルがどうしたのかと雪里の方を振り向くと、
雪里はロッキングチェアからぽんと降りる。
ぱたぱたとドアの方へ走って行き、外をじっと見つめた。

数秒そうした後で、フェルの方を見る。

「おじさぁん、せつりのかさかしてもいい?」
「……小さいだろうから、私のを貸してあげなさい」





ぱしゃぱしゃと音がして、少年はゆっくり振り向く。
小さな女の子が明るい黄色の傘をさして、
自分のことをじっと見上げていることに気づいた。
女の子は手に抱いていた、大きな蒼色の傘を少年に差し出す。

「おにいちゃん、かぜひいちゃうよ? はい、かさ」
「あ……、えっと……。だ……だけど……」
「せつりもこないだ、かぜひいたんだけどね……すごく
 くるしいよ。だから、ちゃんとさしてっ!」

まっすぐに見つめてくるその目に、
少年はとまどいながらも傘を受け取った。

「ありがとう……。君に返す時は……」
「せつりのいえはあそこだよ」

少年は向かい側に、店があることに初めて気づいた。

「……雨がやんだら、返しに行くね」
「うん。そのときはいっしょにあそぼ!」
「……いいですよ」
「やくそくね」





カランカラン、とドアの鈴が鳴って雪里が入ってくる。
ドアの向こうに見える、傘をさした白い服の少年。
今回はあまり長引かずに事態が進みそうだ。
そうフェルは思う。
彼のことは、きっと放っておいたりはしないだろうから。

類は友を呼ぶ……かな?

店の中にはまた歌声が満ちた。

「てーのひらをーたいようにーすかしてみーたーらー」





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