「おじさぁん」
珍しくカウンターにいたフェルは、
ドアから顔を出してきた雪里を振り返る。
「何だい?」
「あのね、らんまおにいちゃんがくれたおかし、
さたんおにいちゃんといっしょに、たべていい?」
「いいけど、食べすぎてはいけないよ」
すると雪里は、ぱっと笑って頷くと部屋へと戻っていった。
くすりと小さく笑んで、新書の包みを開いていく。
カランカラン……
「おい、俺様が頼んでおいた……」
「どうぞ」
お客の言葉も聞かない上に間も置かず、フェルはにっこりと
微笑みながらカウンターの上に、それを置く。
円筒形が少しだけ変形したかのような、
上が細く下が太いフォルムの白い “それ” 。
天辺の突起から伸びるのはまぎれもなくトリガーだ。
男は黙して “それ” を見下ろし、目を細めた。
『 フ ァ ブ ● ー ズ ( 無 臭 ) 』
ぴかぴかの新品で、まだ使われていないようだった。
「…………こうして我慢してやっているだろう…………?」
「本屋ですから、火気厳禁当たり前です」
「俺様にここまでさせて、まだこの上、お前……」
「雪里に良くないですからね……煙草の匂いは消して下さい」
ぎりり、と奥歯を喰いしばる男の顔は、何だかもう必死だった。
いっそ死相さえもが出てきそうな雰囲気だったが、
そんなことフェルはまったく気にもしない。
ぷるぷると震えた男の手が、ゆっくり白い容器へと伸ばされる。
数十秒の後。
やや足元の方へ、ぷしゅっとトリガーが引かれた。
ドンッ! とカウンターの上に置く男。
良くできましたと言わんばかりに、フェルは微笑んでいる。
「……これでいいだろう!」
「そうですね、徹 (とおる) 君」
「ならば、早く、俺様が頼んでいたサファイアを」
「早く残り全部使って下さいね」
二時間後。
男は店からマッハの勢いで出て行ってしまった。
END.