目の前には、小さな小さな子供。
特に目立つような子供ではないけれど、
それはそれは美しく珍しい “モノ” を持っている。
ああ、求めていたものは――。
『 海にたゆとう気はあるか……? 』
びくん、と己の中の何かが震えた。
己が王に力を突きつけられた時よりも。
それは遥かに遥かに。
『 汝、深海の安らぎを知る気はあるか……? 』
声が出ない。
束縛されている。
『 ……永久の時を知る気がなくば――去れ 』
解放される。
目の前のモノを手に入れたい。
けれど、今は逃げなければ。
あの声より逃げなければ!!
「……きえちゃった……?」
「その方がいい」
ぽつりと呟く雪里の頭に、優しく手が乗せられる。
長い黒髪を高く一つに結った男性が、
いつのまにか雪里の後ろで肩膝をついていた。
微笑みは慈しみと哀しみを含んでいる。
「どうして?」
「でなければ奪われてしまっていたよ」
「せつりからなにをとるの?」
男性は目を細めて、重そうに口を開いた。
「ひとの、大切なものを」
そしてもう一度だけ雪里の頭を撫でると、
ゆっくりと立ち上がり、男性は歩いていってしまった。
その姿が見えなくなった後で、角から青年が姿を現す。
男性が消えた方をちらりと見て小さく嘆息した。
思わず隠れてしまうとは、らしくもない。
だが、それも仕方がないことだ。
“私” は反抗しているのだから。
「……まさか来るとは思わなかったけれどね……」
「あ、おじさん」
フェルは微笑んだ。
「さあ、早く 『IN・YOU』 に行こうか」
NEXT.