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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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第二話

 
 

俺は気づかれないように注意しながら、美少女をよくよく観察してみた。
いくら細身であるとはいえ、それなりの長さがある剣を腰に携えても、
ふらつかない立ち姿に感心する。

鞘の無骨なその長剣は、俺ぐらいの身長であれば振るうのには
ちょうどいいサイズだ。
もし俺がこの美少女であれば、普通は短剣とかダガー、レイピアとか、
軽さを重視して選ぶ。
俺は 『自分の道具にこだわらない奴は二流であり、また道具に
当たる奴は三流以下』 であると普通に思ってる。

それこそ、そんなレベルにも到達しない話ってのが、
『自分の道具に振り回される』 って奴だ。
自分の性分に合う道具を選び抜き、それを使いこなせて初めて、
一流だの二流だのって話になるからな。
きっと素人目じゃ分からないだろう。

その細腕で、どんだけこの剣を扱ってきたんだか。
まったく恐れ入るな……。


「仲間とはぐれたりでもした?」
「いえ、一人旅です」

うーん……。
これが明らかに旅行中の美少女とかだったら、家まで届けて
謝礼金を受け取るって寸法になるんだが。
この美少女じゃ無理だろうな……それは……。

俺は内心で深く溜息をついた。
美少女は俺の心境も知らず話を続ける。

「別に何かのアテがあるわけでもないんですけど、とりあえず
 この先にあるテルモードにでも行ってみようかと思ってまして」
「……テルモード?」
「そうです」
「……えーと……あのさ、俺の間違いじゃなければ、さっき向こうへ
 歩いてなかったっけ?」

美少女の言葉に、俺は思わずポカンとした。

道の先の方を俺が指さす。
すると美少女は、とても可愛い笑顔で頷いた。
……あのなあ……お嬢さんよ。

「ええっとな、向こうはテルモードじゃないぞ?向こうの道はアトラスで、
 そっちの道がテルモード。まるっきり逆方向だ」
「ええ?」

俺はアトラス方面に指をたてたまま、空中ですいっと右から左へと
平行線を描く。
思いきり呆れた表情をしてやろうかとも思ったが、さすがに初対面で
それもどうかと思う。
何とか表情を心の内だけに押しとどめてみせた。

だって何せ、少し戻った分かれ道に、
町の名前がしっかりと書かれた看板があったはずだぞ。
ここからでもひょいっと後ろを振り返ってみれば、
少し戻った所に看板があることが分かる。

「あら? 看板通りに歩いてきたつもりなんですけど」

いや…… 『あら?』 じゃなくて。
看板見たのに何で逆方向を歩いてるんだ……。
かなりの方向音痴なのか……?

どうしてだろうかと、すっごく不思議そうな顔をしながら、
ことりと美少女は首を傾げてる。
結構旅慣れしてると思ったけど何か旅慣れしてないように見えるのは
何でなんだ……。

「おかしいですよね。この間もちゃんと町の方へ向かってたのに、
 いつのまにか町の名前を忘れちゃってて海辺の村にいたんです。
 私ったらそそっかしくて!」

てへっと可愛らしく笑う美少女。
いやあの。
それって方向音痴とかそそっかしいとか、そういう問題じゃないような
気がするんだけど。
俺としては。

「あの、どうかしましたか?」
「いや……」

俺が黙り込んでるのを不審に思ったのか、問いかけてくる美少女に
俺はのろのろ首を振る。

確かに容姿は目の保養にはなるだろうけど、これ以上この美少女と
関わっても俺の得にはならない。
そう判断した俺は、にっこりと笑顔を浮かべた。

「とにかくテルモードは向こうです。それじゃあ、俺はこの辺――」
「あ!」
「えっ」

いきなり声を上げた美少女に、俺はぎくりとする。

「そうですかー、はい、そうだったんですねー。あの、すみません、
 大変ですね」
「へ?」
「分かってます分かってます。色々あったんですよね、色々と」
「……いや、俺は……」
「あーっ、何も言わなくても大丈夫ですよ。分かってますから!」

初対面の俺の、何を分かってるんだ。
思わず俺はそう言いたくなった。

ただ単に呆れて黙りこんでいた俺のことを、この美少女はどうやら
“テルモードの名を聞きたくない” というリアクションだと
勘違いしたらしい。
多分美少女の中の俺は 『何かの事情で町を離れなければ
ならなくなった謎の美青年』 になってるんだろう。

「それじゃあ、アトラスに行きましょう!」

おいおいおいおいっ!!
どうしてそうなる!!


「いや、だって君はテルモードに……」
「さっきも言いましたけど、私には特に旅のアテはありませんから。
 ああ、それじゃあ、アトラスまでの護衛も兼ねてっていうのは
 どうでしょうか?私はガウリイ、見ての通りの傭兵です。貴方は?」
「…………。」

話し合いをする気力もなくなった俺は肩を落として、リナ、と答えた。





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