第三話
何だかんだで、ガウリイっていうお嬢ちゃんの護衛をすることに
なってしまった俺……。
……っていうか、このお嬢ちゃんに護衛なんてものはそもそも
必要ないはずなんだ。
もちろんそんなこと、お嬢ちゃん本人が分かってるだろう。
それでも強引に俺を “護衛” と呼び、つれてきたのは、ひとえに俺を
テルモードから遠ざけようとしてのこと。
つまりお嬢ちゃんは、いい人、善人なのである。
これがムダにコビ売ってくるようなねーちゃんであれば、俺としては
コナをかけるという行為も思いつかず、速攻シカトしてただろう。
しかしこのガウリイお嬢ちゃんは、何の詮索もせず、ただ真剣に
俺の心配をしてくれているらしい。
……断れるわけがない。
「あ、宿屋があるわ」
「……んじゃー、今日はあそこに泊まるか」
「ええ」
アトラスの途中にある宿場町。
昼食を取ってからそれぞれの部屋に入り、ようやく一人になれた俺は
さっそく重たいマントを外した。
そこにつまったお宝をいそいそと検分し始める。
さすがにあのお嬢ちゃんがいる所で、堂々とお宝検分するわけにも
いかないからなあ……。
「んーと。お、このオリハルコンの神像は結構出来がいいな!
高く売れそうだ。……何だ、このナイフ。たちの悪い魔法が
かかってんな……解除して別の魔法をかけとくか」
価値がありそうなものを先に分けると、あとは滅びた公国の金貨やら、
宝石類がざっと二、三百。
大小様々な宝石はキズモノもあるから、そのまま売ってしまうのと、
ジュエルズ・アミュレット用に作り直すのとに整理するか。
そんな風にせっせと宝石の仕分けをし、キズモノをあらかた
ジュエルズ・アミュレットに作り終えた所で、ひかえめにドアが
ノックされる。
「リナ、そろそろ夕食の時間だけど?」
「ん」
ガウリイの声に窓を見やった。
とっくに太陽は地平に沈もうとしていて、夕闇に染まりつつある。
あれま……久々だったんで思わず熱中しちゃったか。
「荷物片付けてから行く。さきに食べてていいぞ」
「ええ、分かったわ」
あ、今の会話からも分かったように、ガウリイお嬢ちゃんはここ数日で
俺への敬語をやめている。
というよりも、俺がむずがゆいからやめてくれと頼んだ。
敬語がクセだっていうんならまだしも、あきらかに気を使って敬語を
使われているとなると、俺としても何だか、居心地が悪いからな。
待たせるのも悪いと思い、てきぱき荷物を片付けて宿屋の一階にある
食堂へと降りていく。
ガウリイお嬢ちゃんを探すと、窓際の奥の席に座っていた。
いちいち頼むのは面倒だろうと思ったのか、俺が自分で頼む
メインの料理は除いて、テーブルの上にはすでにサラダやスープ、
いくつかの小皿の料理が運ばれてる。
本当にこういう気配りは上手いんだよなあ。
このお嬢ちゃんって……。
俺は店のおばちゃんにチキンソテーセットをひとつ頼んで、
お嬢ちゃんの座る向かいの席についた。
「リナ、もしかしてさっき部屋で魔法をつかってたの?かすかに
呪文みたいなのが聞こえてきたけど」
「あー、まーな」
俺はサラダをぱくつきながら、曖昧に頷く。
きっとジュエルズ・アミュレットを作る話をした所で、お嬢ちゃんが
喜ぶとは思わない。
「へええ。それじゃあリナって魔道士か何か?」
ずべべっ!!
思わずテーブルに突っ伏した俺を、ガウリイお嬢ちゃんは
きょとんとした顔で見てくる。
あのなあ、お嬢ちゃんよ!!
あんたは常識の抜けたどっかの箱入り娘か!?
「一体今まで俺を何だと思ってたんだ?この俺の格好、マントやら
ローブやらショルダー・ガードとかで分かるだろう、普通!!」
「確かにそれらしいと思ってだけど……。いや、私はてっきり、
魚屋さんかウエイトレスかと」
ずばべしゃっ!!
起こしかけた体がまた突っ伏し、近くのスープ皿をひっくり返す。
うわあ、もったいないことをした!
俺、そのポタージュまだ一口も飲んでなかったのに。
「……冗談よ、冗談……」
ぽつりと呟くお嬢ちゃん。
あんたの場合、冗談が冗談に聞こえないんだよ!
真面目な顔して言ったくせに!
俺が口を開きかけた時。
けたたましい音を立てて宿屋のドアがけり破られた。
「あの男だ!」
ドアを蹴破った声の主と、俺の目がばっちりと合う。
ちなみにそいつが指差す先には俺。
あっちゃー……まーた面倒なことになった。
何故だか包帯ぐるぐる巻きのミイラ男の後ろからなだれ込むのは、
トロルの群れ。
うーむ、どうするかな。
NEXT.