「お前、自分の力を与えたって本当か」
部屋に入ったとたんに睥睨される。
そして言葉は多少荒々しい。
「…… “与えた” というよりも “貸した” 方が近いな」
「ぐあ、本当にやりやがったのかよ」
私が苦笑しながら答えると、大げさに肩を落とす。
頭痛がしているかのように頭を抱えた。
けれど、私を睥睨するのだけはやめない。
「お前分かってるのか? 人間なんかにそんな力を与えたら」
溜息まじりの言葉。
私はようやく何を心配されているのかが分かった。
――言外に言っているのだ。
“人間に安易に力を貸すと法則を違える” と。
思わず笑ってしまった私に、睥睨がきつくなる。
遠まわしではなくそう言えばいいのに。
「彼女は大丈夫だよ」
「ったく。何でそんな事分かるんだよ」
「分かるよ」
きっぱりと言い切った私に、不思議そうな顔を向けてくる。
「君に似ている子を選んだからね」
唖然とする顔。
そんな百面相を見たのはいつぶりだろうね。
「……は、あ? 俺に似た奴?」
「そう」
「ば、ばっかだろ!! 余計に危ねぇじゃねぇか!!」
「大丈夫。危なくないよ」
怒鳴ってくる声に私は微笑んだ。
知っているだろう?
この世界の美麗さを。
この世界の醜悪さを。
ならば私の力を持ったとしても深く考えるだろう。
どんな時に、何のために使ったらいいのかを。
私は自分の目を疑った事はないんだよ。
そう……特に彼らのような人間に関しては、ね。
脳裏に力を貸した子供の顔が蘇る。
畏れるような、夢見るような、損と得を手にした顔。
望んでいても信じてはいなかったのだろう。
己にそんな時がくるのだと。
ならば必死に考え、望みを叶えるがいい。
世界の有り方を知ってなお、そこで生きる子供よ。
END.