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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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世界



 

「こんな世界は、すぐ壊せるのにね」

手を伸ばして虚空を押す。
ぴしりと小さな音。
細かい蜘蛛の巣のような割れ目が走る。
一面の青空に細い黒糸が張られた。

眼に熱い波がこみあげる。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。
壊さないで、消さないで。
僕の世界をそれ以上。

「ねえ、こんな世界はくだらないんだよ」

くだらなくてもいいんだ。
だってこの世界は僕が望んだ世界だ。

ここは僕を認めてくれる世界。
誰も否定なんてしない温かな場所。
何もかもが僕を照らしてくれる。

くだらなくていい。
僕にはとてもすばらしい世界なんだから。

「いつまで閉じこもっていられると思ってるの?」

閉じこもる?
いいや、僕はのびのびと歩いている。
前を見て晴れやかな笑顔で未来へ向けて。
僕はちゃんと陽の下で。

「君みたいな馬鹿な人って何て言うんだっけ」

馬鹿でもいい。
僕は阿呆でもいいんだ。
僕は、僕は。

「ああそうだ、愚か者って言うんだよね、確か?」

愚か者でもいいさ。
僕は僕がしたいことをしているんだ。
誰にも迷惑なんてかけてない。
自分がやりたいと思ったことをして何が悪い。
僕は僕であるための行動をしたんだ。

「自己防衛って言葉は……知ってるわけないよね」

そんなの知らなくてもいい。
だって自分を守るようにしてる行動なんじゃない。
僕が僕として生きていくからそうしてるんだ。
それは誰かに非難される理由はない。

この世界は僕が破壊して構築して再生して創世したんだ。
僕の世界を組み上げて編み上げて置き換えて。
彩ったんだ。

全ては僕の色になった。
僕のあるべき心の平穏なんだ。

ぼろりぼろりと、熱い球がこぼれおちる。

「泣いたって駄目だよ、だってこの世界は創られちゃ
 いけない世界なんだ」

壊さないで。

「自分の世界は自分の心に創るもの、歪みに創るものじゃないよ」

歪んでなどいない。
ここはこんなに綺麗じゃないか。

「それは君の願いがそう見せているだけだよ、僕には見えない」

だからその手を押すのか。
僕の世界を無残に散らして壊すのか。

「暗黙のルールだよ、心以外の場所に世界を創造するのは
 君の役目じゃない」

やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。
僕の世界を壊さないでくれ。
奪わないでくれ。

「奪うんじゃなくて還すんだよ」

これは僕の世界だ。
誰に返すんだ。
僕の世界は僕に返してくれ。

「返すんじゃなくて還す――まあ、どっちみち時間切れだからさ」

ぱきっ。
軽い音だけれど蜘蛛の巣は大きくなっていく。

ああ、ああ、ああ、やめ、やめて、やめて、やめてくれ。
僕から世界を取り上げないで、僕の、僕の世界を。
やめてくれやめてくれやめてくれ。

「そろそろ現実を見ないと魂まで歪みに堕ちちゃうよ、
 おにーさん」





ぱきん。





「ただいま戻りましたーって、あああ、ずるーい、主人ー」
「何だよ、帰ってきてそうそう」
「ああ…お疲れ様」
「わわわっ、すすすみませんっ卑しい所を!!」
「……いやしい……?」
「まだ残ってるから食べるといい」
「あああはいっありがとーございますーっ」
「ったく」





END

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