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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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応答



 

「俺のこと、酷いって思うか?」


彼は私に目もくれずに言う。

それは決して私を傷つける行為ではない。
彼の、複雑な心境がそうさせているだけだから。

私に目を向けないことで、視線があわない。
視線があわなければ、余計な言葉を重ねずに済む。
余計な言葉を重ねなければ、私は思い悩まない。
私が思い悩まなければ、彼は後悔しない。

つまり、そういうことだ。


「私はまだ何も訊いていないけれどね」


いつもなら“酷くはない”と言っていたかもしれない。
あるいは“何の話だい”とはぐらかしていたかもしれない。
それでも今日は、聴いてあげるべきだと判断する。

彼が口にするのは真実。
彼が口にしないのは虚実。
彼が目にするのは虚実。
彼が目にしないのは真実。

嘘偽りなく、彼は問い続けては答えを求めない。
答えを訊いては、答えの是非を考えない。
何が正しいのか正しくないのかは、あまり関係がない。
発せられた言葉のみがその場の全て。

つまり、そういうことだ。


「俺は消えてもいい」

「そうかな」

「消えたって全ては繋がれる」

「どうだろうね」

「俺の身近な奴は波紋を受けるだろうな」

「どこまでだろう」

「時間が重なってけばすぐ忘れる」

「分からないな」

「だから俺は消えても構わない」


彼は私に、目を向けない。


「人は臆病だ」

「そう」

「人は強欲だ」

「そう」

「何が大切か知りもしない」

「そう」

「永遠の命なんてくだらない」

「そう」

「限りある命だから存在してられる」

「そう」


彼は、私に目を向けない。


「時間を重ねず在り続けるなんて、消えてくのと同じだ」


彼は私に目を、あわせない。


「酷いって思うか?」


そのままソファで寝入ってしまったのだろう。
しばらくすると、かすかな寝息が聞こえてきた。
両腕で顔を覆っていて、表情は見えない。


「今更私にそんなことを訊いてくれるのは、君一人だよ」





END.

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