その本は白かった。
全てのページが、表紙が汚れのない白色だった。
タイトルはなかった。
どこにもタイトルが書いてなかった。
図書館の棚の奥にひっそりとあった。
ある時一人の青年がその本を見つけた。
何となく青年は本に触れていた。
白い本の中のページが一枚、青い色に染まった。
青年は驚きながらもその色に魅入られた。
飛行士になる事が、青年の夢だった。
ある時一人の少女がその本を見つけた。
不思議に思った少女は本に触れていた。
白い本の中のページが一枚、淡い桃色に染まった。
少女は少し怖くなって逃げてしまった。
友達の少年に、少女は知らぬ間に淡い想いを抱いていた。
ある時一人の男性がその本を見つけた。
隣の本を取ろうとした男性は本に触れていた。
白い本の中のページが一枚、紫色に染まった。
男性はふいに泣きそうな顔をした。
理想と現実に挟まれて、男性は酷く迷っていた。
ある時一人の男がその本を見つけた。
何も思わずに男は本に触れていた。
白い本の中のページが一枚、黒く染まった。
男は暗く笑みを浮かべた。
自分を捨てた女性を一人、男は殺そうと考えていた。
白い本は染まる本だった。
何枚もあった白いページは黒い色に
どんどん染められてゆく。
青年の青色も、少女の淡い桃色も、男性の紫色も。
その本は黒かった。
全てのページが光のない黒い色だった。
タイトルはなかった。
どこにもタイトルが書いてなかった。
図書館の棚の奥にひっそりとあった。
ある時一人の女の子がその本を見つけた。
笑顔の女の子は本に触れていた。
黒い本が、白い本になった。
全てのページが、表紙が、汚れのない白色になった。
白い色に染められた。
女の子はとても無邪気だった。
その本は染められる本だった。
その本は女の子に染められた。
白い本は今も図書館の棚の奥。
ひっそりと並んでいる。
END.