「風に、なりたいなぁ」
ぽつりとこぼされた言葉に驚く。
本当は聞こえない振りをしなければならなかった。
けれどそんなことなど、出来るはずがなかった。
「何、だって?」
「風になりたいって言ったの」
彼女は小さく笑って、それでもはっきりと言う。
どうしてそんなことを……?
なぜ君が、今そんなことを言うのか?
いったい君は何を考えているんだ……。
「ずっと思ってたの。風になりたいなあって」
「……それ、は」
それは今までの君を否定する言葉でもある。
それはこれからの君を歩ませぬ考えでもある。
分かっているはずなのに……。
それは僕の存在を否定する。
「あなたがいるから、私はずっとこうして存在できた」
僕が輝けば君も輝くのだから、頑張った。
「私が私であるように。あなたも存在し続けた」
僕はただ君が寂しくなければいいと思っていた。
「悲しかった」
君を苦しめていたのは僕なのか?
仕事を交代するその時。
少しだけ君と微笑み手を振り交わして。
長い間を待ち続けて。
少しだけ君を抱きしめることが出来て。
「最後に赤く赤く輝いているあなたを見送って。
一年の間に数回だけあなたに触れることが出来て。」
君のためにしていたこと。
「それだけでは寂しくなってしまったの。
私は欲張りだから……寂しいの」
僕だって。
本当は。
「だから私は風になりたい」
君とともに。
存在していたかった。
「ねえ、聞いた?」
「聞いたわ。月光の姫が風になりたいと……」
「太陽の君は傷ついていらっしゃるわね」
「ああ……お二人はとても愛し合っていたのにな……」
「私たち星は仲間がいるけれど」
「月光の姫と太陽の君はお一人ずつ」
「どちらかを失くしては、存在出来ない」
「お二人はとても優しい方だったから……」
「世界はどうなるのかしら」
「月光の姫が失くなって乱れている」
「あの御方は? ……あの御方は何と……」
「分からない」
「あの御方が一番落ち込まれていらっしゃった」
「お2人を創ったのは、あの御方だものね」
「きっと責任を感じていらっしゃるわ」
「とてもお優しい方たちだ」
「もう少し私たちが頑張ってみせましょう」
「あの御方ならきっとよしなにはからってくれる」
「世界も、お二人の事も」
「あの御方なら」
「太陽の君と月光の姫」
「来世では幸せになれるといいな……」
END.