おや?
こんな暗い所で、何をしているんですか?
……迷子になった……?
ああ、それは大変ですね……。
大丈夫ですか、私がそこまお送りしましょうか。
足元に気をつけて……さあ、お手をどうぞ。
ふふふ、安心していいですよ。
私はずっとずっと、ここにいまいた。
だからここにはくわしい自信があるのですから。
それにしてもどうしてこんな所へ?
お父さんを探していただなんて……。
一人では無理ですよ。
ここは見た目よりもっと広くて。
もっと迷いやすいんです。
特に、初めて来たのなら簡単にね。
だからもう来てはいけませんよ。
見つけるまで帰らないと言われても……困りましたね。
お母さんはどうしました?
……ケンカしたなら仲直りすればいいんですよ。
簡単に言わないでって言いますけど。
だってそんなこと簡単じゃないですか。
ただごめんなさいと。
言えばいいのだから。
君は幸せ者ですね。
お母さんに心配してもらえて、怒ってもらえるのですから。
ここはね、忘れられた人達の来る場所なんですよ。
誰にも心配してもらえなくて。
誰にも怒ってもらえない。
そんな一人ぽっちの人達のいる場所。
ごめんなさいも、ありがとうも言えない。
さよならも言えない人たちの、悲しむ場所です。
だから君は来てはいけません。
お願いだから仲直りをして下さい。
ほら、小さなともしびが見えてきましたよ。
―――あなたに聞こえますか?
戻ってきてと、
ごめんなさいと、
いかないでと。
さあ、早くお行きなさい。
このまま振り返らずにまっすぐに。
ここは本当なら来なければいい場所だから。
会えてよかったよ。
幸せな私の娘。
END.