「……ねえ、兄ちゃん」
「んー? 何だよ」
兄に向かって声をかける。
すると、やる気のない返事が上がる。
「兄ちゃんって、恋人作る気ないのー?」
「はあ?」
心底呆れた顔で振り向いてきた。
「だってここ何年も恋人いないでしょ?」
「何でお前がそんなこと知ってんだよ」
苦虫を噛み潰したような表情。
思わずくすくす笑う。
「えっへっへっ、何でだと思う?」
「あの馬鹿が教えたな?」
幼馴染を思い出しているだろう兄はふて腐れた。
「いーんだよっ! 今は作る気ないの!」
「何でー? 兄ちゃんモテるのにもったいなーい!」
身内贔屓するわけじゃなく、実際兄はモテる。
「お前は何でそんな事気にするかなあ……」
「いつまでも兄ちゃんが独り身だと思うと心配で心配で」
よよよ、と泣きまねする。
「馬鹿かお前はっ」
「そりゃ酷いわ兄ちゃん!」
ショックを受けたように叫ぶ・
兄はさすがに怯んだ。
「こんなに心配している身内に、なんつー言葉をかけるのですかっ!」
「ちょ、待て、い、いや、あのな、おい」
ばふばふとクッションを叩くと慌てだす。
「そんなの平気で言う兄ちゃんはもう兄ちゃんじゃありません!」
「ええ!? そりゃ言いすぎだろうが!!」
兄は分かっているのだろうか。
「そんな兄ちゃんに育てた覚えはありませーん!!」
「どっちかっていうとお前を育てたのが俺だが落ち着け!!」
こんな冗談をちゃんと聞き入れてしまうとこも。
「うううっ、兄ちゃんの将来が馬鹿な女に寝取られると思うと」
「寝取られるのは確実なのか!?」
嘘泣きと分かってて慰めようとするとこも。
「大丈夫、兄ちゃん。認知してって迫られたら夜逃げ手伝ってあげる」
「兄ちゃんはどこでそんな怖いことを覚えてくるのか心配だよ!?」
どんな我侭でも、可能な限り聞いてくれるとこも。
「兄ちゃん……蛇の道は蛇、知らない方がいいこともあるんだよ」
「ぎゃあああっ!! 悪の道にいるー!!」
ねえ、兄ちゃん。
そんな兄ちゃんがね。
「だから早くあのお馬鹿な幼馴染とくっついちゃってね?」
「……そこでそこに持っていくのかお前は……」
大嫌いなんだよ。
すごく上手く立ち回って。
いつも大事なものを奪っていく。
兄ちゃんなんて大っ嫌いだ。
「ふふん、兄ちゃんのことなんてお見通しだもんねー」
「……はあ……」
でもね。
それと同じくらい好きだよ。
大好きなんだ。
兄ちゃんは自慢の兄ちゃんなんだ。
だから大っ嫌いだし、大好き。
矛盾してるかもしれないけど本心なんだよ。
ねえ、兄ちゃん。
笑う? 怒る? 泣く?
それとも。
「ねえ兄ちゃん」
「はいはい」
「早く結婚して家から出てってね」
「……兄ちゃん泣いていいか」
END.