―瞳の色―
ルヴィリオはドアのところに佇み、物静かな微笑みを顔に浮かべつつ、
男を見つめている。
男は刃を振り上げたまま、凍りついたように動かない。
ルヴィリオの静かな威圧感に気圧されているように見えた。
ゼロスは怪訝に思う。
――たとえ素人でも、こういうことはなれていると思ったが……?
「ルフラット君? 誰に頼まれたのかな?」
名前を呼ばれて男はびくり、と肩を揺らした。
「もちろんアースード君とゼイツ君にも、聞いているんだけれど」
窓の下で、背を低く保っていた二人の男も視線を彷徨わせる。
どうにもゼロスは不思議に思えて、仕方がない。
本業ではないのだろうが、今までもこういうことをしてきたはずだ。
それならば、何故その手の動きが止まる?
――ああ……力か。
男の瞳を見た時、ようやくそのことにゼロスは考えついた。
この男たちは恐怖を感じているのだ。
目の前のルヴィリオに。
呪文を唱えることなく、発動されている彼の謎の力が。
謎の魔術を自在に使う男と、素人を殺すことを安易に知る村人。
彼らの中にある力の差は歴然としすぎている。
適うわけがない、と。
「まあ、その様子をみると村長に言われたんだろうね」
「……ひ」
ルヴィリオは軽く溜息をつくような仕草をすると、部屋の中に足を
ゆっくりと踏み入れてくる。
肩で切りそろえられた黒髪が、その動作に伴ってふわりと揺れた。
微笑んでいた瞳を開いて、紫煙の瞳で彼らを射抜く。
何故だろうか。
思わずゼロスはその瞳に見入った。
「さて、ルフラット君、アースード君、ゼイツ君……。引いてくれるね?」
からん……と男の手から刃が滑り落ちる。
その音をきっかけにして、男たちは我先にと窓から慌てて脱出し、
部屋から去っていった。
静まりかえる部屋に、窓だけが小さな余韻をキィ、キィ、と残している。
「大丈夫だったかい? ゼロス」
「…………。」
安心させるように笑ってくるルヴィリオを、しばしゼロスは見つめる。
――行動を止めたのだろうか、それともただの偶然だろうか……?
ゼロスは黙って頷いた。
「そうかい……それは良かったよ」
――読めない。
NEXT.