扉を開けて中に入り、静かに閉じる。
しっかりとドアに鍵をかけると、部屋は完全に闇の中。
だが、そんなことをまったく気にせず名前を呼ぶ。
「ジェームズ」
するとぼんやりとした光が灯り、ひとつの影を浮き出す。
ソファに座っているのは、眼鏡をかけた男性。
眉をひそめ、足早に彼へと近づく。
顔がはっきり見えてくると、思わず小言がこぼれた。
「――愚か者か、お前は。こんな危険な真似をするなど……」
「ごめん」
ジェームズは苦みの強い笑みを浮かべる。
その顔を見て、彼にとっても仕方のない決断だったと悟り、
重く溜息をついてから向かい側のソファへと腰を下ろす。
「……本当に君にはすまないと思ってるんだよ、これでもね。
だけど――やっぱりどうしてもこの手しかなくて……」
「いい、用件を言え。時間がない」
「……うん」
弱く言い訳めいたジェームズの言葉を、あえて遮る。
いつも彼は自信満々で、傲慢にすら見えてくるというのに、
これほど憔悴した姿を見るのはいつぶりだろうか。
それほどに悩み、考え、ついに行動したのだ。
きっと覆すことなど出来やしない。
結局、この幼馴染はとてつもなく自分勝手で我侭なのだ。
最後には自分の思った通りにしてしまうのだから。
「そう……実はね」
「ああ」
「預かってほしいんだ――大事なものを」
「……?」
ひたすらに真剣な目をしたジェームズ。
言葉からは真意が読み取れず、怪訝の沈黙を返す。
「いつもの言葉遊びじゃないよ、言葉の通りさ」
「……お前らしくもない。何なんだ?」
「――はい」
ジェームズは隣に置いていた大きめの荷物を抱えると、
それをゆっくりと慎重に渡した。
両腕で抱えなければ持てないほど、大きく重さのある網かご。
かごの中には何枚ものふかふかしたタオルが入っている。
いったい何が入っているのだろうと、一番上のタオルをどけ――
硬直した。
「……本当にね、悩んだんだ。君に預けていいんだろうかって。
預けることによって、君のこれからを束縛しかねないし、
逆に君が束縛するかもしれない。でもね、考えてみたんだ……
預けることによって、もしかしたら君の支えになるかもしれないと。
だって、大事にしてくれれば危ないことなんてしないだろう?」
くすくすと小さく笑うジェームズは、つらつらと述べる。
しかしその言葉は、右耳から左耳へと抜けていくばかりだ。
「聞いてるかい?」
「……私に……預ける、だと?」
小さく聞き返した問いに、ジェームズはしっかり頷く。
「ああ」
「……リリーやシリウスたちには相談したのか」
「もちろん。承諾は貰ってきたよ」
「……本気なのか」
「本気だよ。賭けでも何でもない、ただの本気さ」
ジェームズはにっこりと笑った。
「どうか、セブルス。僕の宝物、ハリーを預かってくれ」
NEXT.